人間の作り出した光が招く、昆虫の奇妙な行動
街灯の下で動けなくなるタガメ
「飛んで火に入る夏の虫」ということわざがあるように、多くの昆虫は光に引き寄せられる「正の走光性」という性質を持っています。例えば水生昆虫のタガメは走光性が強く、夜に飛んでいると水銀灯などの街灯に誘引されて落下しますが、その後に動けなくなります。夜行性のタガメは、強い光に遭遇すると昼間だと勘違いして行動を抑制してしまうからです。タガメは動けなくなったまま、脱水症状を起こしたり、動物に食べられたり、車にひかれたりして死ぬこともあります。一方、街灯が消えて暗くなると、30分程度で飛び立てるようになることもわかっています。
明るい道路に落下するイナゴ
石川県ではハネナガイナゴが大量に飛翔する夜があります。このイナゴも街灯に誘引され、地面に落下します。落下したイナゴは飛び立つことができますが、楕円の軌跡を描いて再び地面に落下してしまいます。これは「失速ターン」と呼ばれる現象で、地面がアスファルト舗装された場所で多く見られます。アスファルトに反射した街灯の光を空と間違えて、体を反転させてしまうのです。結果として、たくさんのイナゴが道路上で一晩中失速ターンを繰り返し、車にひかれて死んでしまいます。
昆虫の激減を防ぐ環境作り
世界各地で昆虫が激減しており、今後数十年で、およそ40%もの昆虫が絶滅すると予想されています。ハチによる受粉のように、私たちは昆虫からさまざまな「生態系サービス」と呼ばれる恩恵を受けています。昆虫の激減が生態系サービスの消失を生み、人間がその役割を担わなければならないとすれば、人間の生活は高い代償を払うものになるでしょう。昆虫の急減の原因の1つは、人間が作り出した人工光によるものです。人為的に作られた環境を、昆虫は人間とは違うようにとらえます。同じ場所に人間と昆虫がいても、受ける刺激や情報はまったく異なるのです。昆虫の奇妙な行動を招くメカニズムを解明し、適切に利用することで、昆虫に優しく、また人間にも優しい環境を取り戻すことができるのです。
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先生情報 / 大学情報
石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 准教授 弘中 満太郎 先生
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動物行動学、応用昆虫学、植物保護学先生が目指すSDGs
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