植物の生存戦略を解き明かす! 転写因子と植物ホルモンの研究

植物が自ら作る防御物質
植物は動物と違って動けないため、乾燥や病害虫などストレスに対抗するために、さまざまな「化学防御物質」を自ら作り出して身を守っています。化学防御物質の研究は、地球温暖化により出現する新しい病原菌や環境の変化などのストレスに強い品種作りにもつながります。
重要な農作物であるイネについても研究が進んでおり、イネの化学防御物質の一つであるモミラクトンは、「いもち病」への抗菌作用、害虫の成長阻害、周辺の雑草抑制、などの働きがあることがわかっています。
化学防御物質に関わる転写因子
化学防御物質の合成には「転写因子」が関わっています。DNAからmRNAへの転写、タンパク質への翻訳というプロセスの中で、転写因子は特定の遺伝子に結合し、その転写をコントロールします。植物が病原菌感染などストレスを感じると、DNA上の転写因子遺伝子から転写因子が転写、翻訳されます。それが化学防御物質に関わる遺伝子の近くにくっついて、転写、翻訳をうながし酵素が合成されます。いくつかの酵素がはたらき、化学防御物質が作られます。
これまでのイネの研究では、化学防御物質の合成に関わるさまざまなタイプの転写因子が発見されました。イネの特定の転写因子の遺伝子を改変すれば、その機能を促進、強化できます。
植物ホルモンが防御反応を促す
化学防御物質の合成には「植物ホルモン」も関わっています。植物ホルモンとは、植物が自ら作る、成長、老化などさまざまな作用を起こす化学物質ですが、その一つ「ジャスモン酸」は、化学防御物質の合成を促す情報伝達機能もあることがわかりました。
ジャスモン酸が多量に合成され、ジャスモン酸受容体タンパク質にジャスモン酸がくっつくと、化学防御物質合成プロセスが開始されるのです。イネにはこの受容体が3種類あり、それぞれ違った役割を持っています。そのうちの一つが化学防御物質の合成に関わっていることが解明され、将来、品種改良に役立つと期待されています。
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