古代のリアルに迫る、石器作りの「実験考古学」
石器作りで、古代がリアルに見えてくる
考古学は、遺跡や遺物などを手掛かりに古代の人の営みを明らかにします。実験考古学とは、考古学におけるアプローチとして確立した新しい分野の一つです。古代の人が実際に使った素材や道具、技術をもちいて過去の道具を作ったり使ったりすることで、失われた過去の人々の行動を残された痕跡を手掛かりに明らかにします。石器を作ると、書物では学べない、多くの発見があります。硬い石や鹿の角を使って原石をたたいて形を整えますが、石の種類やたたく角度、力の入れ方などで割れ方が異なり、石選びや技術をどのように習得したかなど、当時の人々の生活ぶりをより鮮明にイメージできます。1万年の時を超え、リアリティーを持って古代を追体験できるのです。
時を超え、未来への影響も考えた研究
文字がない石器時代の実情は遺物によって考察するしかありません。特に旧石器時代初期の遺物については、人工物か自然物かの議論があるほど判別が難しいケースがあります。また、黒曜石のように風化しにくい石材もあり、現代に作られた石器が遺物と間違われることもあるため、再現した石器は確実に処分しなければなりません。石器製作者が多いアメリカでは、ここ数十年の間に複製品が遺物資料に混在していた事例も起きています。石器を製作して研究することが、未来の研究に悪い影響をもたらすことないように、考古学者にはモラルが求められるのです。
自然科学的な検証も踏まえ、総合的な解明へ
これまでの遺跡調査は、専門分野別に検証されることが多く、解明は断片的でした。その課題を解決するために、地質学、保存科学、動物考古学、植物考古学、木材学、生化学、分析化学などによる、学際的な研究組織によるプロジェクトが進んでいます。令和2年からは、山形県南陽市にある北町遺跡をフィールドとして、動植物化石のDNA調査、地質のボーリング調査などが実施され、当時の環境などを含めた総合的な解明が進んでいます。これらの研究によって、よりリアルな古代の解明につながっています。
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先生情報 / 大学情報
愛知学院大学 文学部 歴史学科 准教授 長井 謙治 先生
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