ジェンダーの視点から知る、近代の作家たちに見えていなかったもの
時代のものの見方を作品からひもとく
近代文学作品には、作家の個性や独創性が発揮されているだけでなく、書かれた当時の日本社会の流行や価値観、雰囲気など、その時代に生きていた人々のものの見方も、色濃く反映しています。文学作品は、その作家や当時の人々がどのような価値観の中で生きていたか、彼らに何が見えていて、何が見えていなかったのかを、ひもとく手掛かりになります。
カフェーの女給たちの本当の姿
明治時代の終わり頃から大正時代にかけて、東京の銀座や浅草を中心に、多くのカフェーが営業していた時期がありました。当時のカフェーは、現代のカフェとは違い、洋酒や洋食などを、女給の接待つきで提供するお店で、作家や芸術家の交流の場にもなっていました。谷崎潤一郎の『痴人の愛』には、カフェーの女給として働くナオミという人物が登場します。ナオミは、男性にとって魅力的でコケティッシュな存在として描かれています。
しかし、同時代の女性作家が描くカフェーの女給の姿は、男性作家が描く女給のイメージとはかなり異なります。プロレタリア作家として知られる佐多稲子の作品では、生活に困窮していたり、シングルマザーだったり、世間の侮蔑的な目に時に傷ついたりしながらも、懸命に生きている女給たちの様子が描かれています。女給たちのこうしたリアルな生活の側面は、谷崎潤一郎をはじめとする当時の男性作家たちには、見えていなかったのかもしれません。同じ題材でも、書き手や視点によって、見えてくるものは違うのです。
違和感を手掛かりに進む研究
ジェンダーや差別、貧富の差などの社会問題への視点を持つと、近代文学史の中で名作と評価されている作品にも、現代に生きる私たちが違和感を覚えるような部分が含まれていることは珍しくありません。そうした違和感を手掛かりに、当時の社会の実態を探り出したり、作品の新たな読み方を提案したり、現代社会を新たな視点で見直したりすることも、いまの近代文学の研究には求められています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
清泉女子大学 総合文化学部 ※2025年4月開設 総合文化学科(日本文化領域) 教授 鈴木 直子 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
日本近代文学、ジェンダー論、女性史先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?