水の中で命を守ろう 合言葉は「ういてまて」

水の中で命を守ろう 合言葉は「ういてまて」

なぜ人は水に沈むのか

水の比重1に対して、空気を吸った人の体は0.98とわずかに軽く、体積の2%だけは水面から出ます。立った状態で水面から出るのは頭頂部で、腕を上げれば体は一気に沈み、苦しくて息を吐けばますます沈んでしまいます。ということは、背泳ぎのように体を水平にする「背浮き」をして、2%に当たる鼻と口を水面から出し呼吸し続ければ、ずっと浮いていられるということになります。ただ、人の浮力の中心は重心よりも上半身側にあります。肺に空気が入っている上半身は浮きやすくなり、一方で、足にはトルクという回転する力が発生し水中に引き込まれていきます。すると背浮きを保てず、鼻も口も水中に隠れて沈んでしまいます。

泳げなくても浮くことはできる

海や川の事故では、着衣のまま水中に投げ出されることがほとんどです。この時、驚いて体をばたつかせると2%の鼻と口を水面に出せなくなります。たとえ泳ぎに自信があったとしても泳いではいけません。着衣水泳は水着水泳とは比べ物にならないくらい運動強度があり、体力を消耗します。いかなるときも、水の中では「ういてまて」、つまり浮いて救助を待つのが原則です。材質にもよりますが、靴や洋服は空気を含んでプラスの浮力になってくれます。また、背浮きに特別な能力はいりません。泳げなくても浮くことができますが練習が必要です。そのために、水難を想定した背浮き練習は、小学校や中学校の水泳授業で行うことになっています。

「ういてまて」で水災害から命を守る

東日本大震災の時、津波が押し寄せた避難先の体育館で、背浮きで助かった小学生がいました。授業で練習した「ういてまて」を実践したのです。近年、日本各地で豪雨災害が増えています。洪水は早期避難が鉄則ですが、逃げ遅れて亡くなる人も多く、その大半は溺死によるものです。「ういてまて」で命を守った小学生の教訓は、今後に生かされなくてはなりません。水災害に対する防災意識を高めるために、「ういてまて」の水災害編をつくることが、これからの課題となっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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明治国際医療大学 保健医療学部 救急救命学科 教授 木村 隆彦 先生

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水難学、水難救助学、水災害学、水防災学

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メッセージ

目標を実現するために、あなたは努力を続けていることでしょう。その成果を市民目線で考え、社会に還元できる人になってください。また、自分の意見を他人に共感してもらうための方法を、日常的に考える習慣をつけましょう。それは大学での学びの場できっと役立ちます。
救命に関する研究は、人の気持ちがわかることが大前提です。いくら素晴らしいアイデアでも、実際の現場で市民が実行できないならば、研究の意味がありません。誰もが実行できるアイデアは、やがて常識となります。市民の側に立った救命を、ぜひ一緒に学びましょう。

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明治国際医療大学は、1983年に日本で初の4年制鍼灸大学「明治鍼灸大学」として開学しました。2008年に現在の名称へ改称し、看護学科、救急救命学科、柔道整復学科、鍼灸学科を有する保健医療分野の総合大学として発展してきました。 学内に附属病院と附属鍼灸センターを併設するほか、学外にも複数の実習環境を整備しています。これらのネットワークを活かし、臨床実習を重ねることで実践力や応用力を養い、人と向き合うことのできる「こころ豊かな医療人」を育成します。