細胞内のタンパク質生成を制御して疾患を治す「核酸医薬」
RNAの異常による疾患をRNAで治す
細胞核の中には、DNA、RNAなどの「核酸」が存在します。このうちRNAは、DNAの情報をもとにさまざまなタンパク質を作り出す役割を担っています。このRNAの異常によって変異タンパク質が作られ、それが原因となる疾患も複数あります。一方、RNAの中には、ほかのRNAの働きやタンパク質産生を制御する「マイクロRNA」というものもあり、この働きを3~4倍に強化したRNAを細胞内に送り込むことで疾患の原因を狙い撃ちする、「核酸医薬」の研究が進んでいます。
塩基の並び順を変えて多様な治療薬を
RNAは、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルという4塩基の連鎖で構成されており、その並び順を変えるだけで性質を変えられます。化学合成する手法も以前から研究されてきたので、いったん薬のプラットフォームを作ってしまえば、塩基の並びを変えるだけで、さまざまな種類の治療薬が作れるわけです。ちなみに新型コロナウイルスのワクチンも、ウイルスのRNAの一部だけを使って抗体を生成させようという薬です。RNAを入れ替えることで複数のワクチンが設計可能だと考えられています。
変異タンパク質を「閉じ込めて」分解
さらに、RNAの「相分離」と「オートファジー」を活用して変異タンパク質を分解するという、先端的な核酸医薬研究も始まっています。相分離とは、脂質膜などがないのに周囲と分離した構造体が存在することです。細胞核内部の「核小体」がその典型です。そしてオートファジーとは、タンパク質やミトコンドリアなど細胞内の部品が、定期的に分解されて新陳代謝する生体システムのことです。
化学合成したRNAで相分離した構造体を作り出し、その中に変異タンパク質を閉じ込めてオートファジーで分解してしまおうというわけです。実現までの道のりは長そうですが、アルツハイマー病、パーキンソン病など、変異タンパク質の蓄積が原因で起こる難病が、治せるようになるかもしれないのです。
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大阪公立大学 工学部 化学バイオ工学科 教授 立花 亮 先生
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