ナノレベルの磁石ががん細胞を死滅させる

ナノレベルの磁石ががん細胞を死滅させる

侮るなかれ「磁性の力」

磁性とは磁石が持つ基本的な性質のことです。この性質を利用して、工業製品の部材や非常に小さな物質の内部を測定する研究が進められています。磁性体に磁場をかけると、その物体を構成している原子にある微小磁石の向きが変化します。この作用を使えば、測定したい物体内の原子がどれだけ乱れているかがわかり、物体の内部構造を確認できるというのがそのメカニズムです。現在はナノレベルでの研究も進められており、その技術は工業分野だけでなく、医科学分野でも大きな役割を果たすと期待されています。

がん細胞をピンポイントで死滅させる

人類の天敵ともいえるのが、「がん」です。がん細胞を熱で死滅させるのが「ハイパーサーミア」で、このハイパーサーミアに磁性を利用する手法が、近年注目されています。はじめに磁性粒子を体内に入れ、磁石でがん細胞のある場所まで誘導します。その後、高周波磁場を印加することで微小磁石の向きを反転させ、その際に出る熱でがん細胞を死滅させるというものです。従来の方法では正常な細胞にまで熱を当てなければなりませんでした。磁性を利用することで、がん細胞だけをピンポイントで死滅させられるという大きなメリットがあり、患者の負担軽減や治療の高効率化につながります。

ナノ粒子で薬を的確にデリバリー

がん以外にも、磁性の医療への応用は進められています。それは「ドラッグデリバリー」という利用方法で、磁性を持つナノ粒子に、薬を適切な場所に運ばせて作用させるというものです。これも磁石で誘導し、磁場を利用するという同様の原理です。実用化に向けては、サイズや形状の均一化が課題になっています。1ナノメートルは0.000001mmなので、意図したものを安定的につくるという技術の確立や、薬や病状に合った形状の選定の2つをクリアする必要があります。手法が確立されれば大きな可能性が広がる技術だけに、1日も早い実用化が期待されます。

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岩手大学 理工学部 物理・材料理工学科(令和7年度から 理工学部 理工学科 材料科学コース所属) 教授 小林 悟 先生

岩手大学 理工学部 物理・材料理工学科(令和7年度から 理工学部 理工学科 材料科学コース所属) 教授 小林 悟 先生

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磁気工学、磁性物理学

メッセージ

磁性の分野というと少し難しい印象かもしれませんが、ざっくばらんに言えば「磁石を物質に近づけると、どう反応するか」を考える学問で、その反応の仕方がどうなっているのかを考えるのが出発点です。ハードディスクやモーターなど、実は磁性を利用したものは日常生活の中にあふれています。
現在は医療分野への応用がテーマのひとつですが、多様な可能性を秘めているのも磁性の特徴なので、近い将来では全く別の使われ方をしているかもしれません。磁性に興味があれば、ぜひ一緒に研究しましょう。

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