材木の上に乗ってまちへ! 山村の人々の暮らしを変えた森林鉄道
木材を運搬するための鉄道なのに
明治時代末から昭和30年代にかけて、木材運搬のために日本の山を走っていた「森林鉄道」。森林鉄道は国が林業のために整備したインフラで、公共交通機関ではありません。ところが、残されている森林鉄道の写真をみると、木材の上や客車に乗る人々の姿が写っています。山村の人々は、生活インフラとしても便利に利用していたのです。しかし法制度上、森林鉄道は旅客運行はできず、人の便乗はあくまでも非公式で、特例的なことでした。そのせいか、森林鉄道そのものに関する研究はあるものの、森林鉄道が山村の人々の暮らしをどのように変えたのかという、「人」に着目した研究はほとんどありません。
当時を知る人々が語る森林鉄道
魚梁瀬(やなせ)森林鉄道は、かつて高知県東部・中芸地域の山間部の国有林から切り出した木材を運ぶための森林鉄道で、日本でも有数の規模をほこりました。
魚梁瀬森林鉄道が走っていた地域を訪ね、当時を知る人々に行われたインタビューでは、「山間部でも海産物が食べられるようになった」「山を歩いて下りるときはもんぺを履いていたけれど、着物を着てまちに行けるようになった」「森林鉄道に乗って嫁入りをした」など、生き生きとした暮らしの記憶が語られました。山村の人々は、森林鉄道をインフォーマルに生活利用することを通じて、衣食住をはじめとする日々の暮らしを再編していったのです。
人々の暮らしに、生き方の多様性を知る
山村に暮らしていた人々にとって、森林鉄道は国有林経営のために、国が一方的に作ったものでした。しかし地域の人々はそれを非公式ながらもしたたかに利用して、主体的に自分たちの暮らしを豊かにしていったのです。文化人類学では、歴史に名を残す偉人や権力者ではない人々の暮らしに注目します。森林鉄道を生活利用する山村の人々の姿がまさにそれです。そうした人々こそが、人の暮らしの豊かさや、生き方の多様性を教えてくれます。
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