医学と工学でものづくり 細胞から立体的な臓器を作る
医学と他分野とのコラボレーション
細胞をシート状にしたものは、心臓疾患などの再生医療に使われています。しかし、シートという平たい状態では利用方法が限られます。そこでより実際の臓器に近い立体的な組織を作っていこうとすると、「細胞と細胞は直接くっつかない」という課題を解決しなければなりません。それには医学の領域だけでなく、ほかの分野との共同研究が効果を発揮します。「ものづくり」をする工学的な技術に医学の知見とアイデアを組み入れたアプローチとして、細胞自身が持つ能力を利用して立体化する手法が誕生しています。
細胞を積み上げるレシピ
この手法は日本で開発されました。「細胞外マトリクス」と呼ばれる物質をナノフィルム状態にして細胞にコーティングし、一気に型へ流し入れると、ほんの1日で厚みを持った組織ができます。数日後に、ヒトの線維芽細胞などのコラーゲンを作る細胞や、血管内皮細胞を加えると、1週間以内で血管のネットワークを持つ立体組織ができるのです。その生成課程を動画で記録することも可能です。細胞を立体構築する技術の背景には、最先端の細胞培養と共に医学の基本である解剖学が欠かせず、さらに、日本が世界に先んじて取り組んできた、リンパ管の研究知見なども生かされました。
移植治療や創薬に貢献できる
将来はヒトの組織からさらに進めて、臓器そのものを作る技術が期待されています。臓器移植においては、移植した組織内ですぐに血流が成立することが必須条件です。血管網を持ったヒトの培養組織は、マウスの組織に移植しても一体化して血管ができるという研究成果があります。例えば血管やリンパ管を持つ腹膜モデルでは、腹膜から転移を起こすがん細胞を観察し、抗がん剤の効果を検証することも可能です。
また、こうしたヒトの万能細胞を培養する技術を用いれば、動物実験の必要がなくなります。倫理的な問題や、本来、ヒトとネズミなどの実験動物では細胞の応答が異なるという問題が解決するでしょう。
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