東日本大震災からの「心の復興」のために、デザインができること
震災復興のデザインプロジェクト
東日本大震災から10年がたった宮城県南三陸町の長清水(ながしず)では、「心の復興」の一環として、あるデザインプロジェクトが実施されました。地震と大津波に襲われた長清水では家族、友人を亡くしながらも、生活や産業を再建してきました。その姿に敬意を表するために、デザインプロジェクトでは5人の地域住民の方に、インタビュー取材を行いました。震災前の人生や、震災をどう生き延びたのか、そして震災後の生き方を語ってもらい、その言葉をビデオアーカイブとして記録しました。また、5人をモデルにした立体彫刻も制作し、集落の祭りの日に地元の浜に展示しました。
素直な言葉を引き出す
集落の人たちは、ともに震災を生き延びた仲間に対して、とても強い共感を抱いています。一方で、身近過ぎて「よく頑張ったね」「立派だね」と、表立って褒めることができない間柄でもあります。立体彫刻は実際のモデルの1.5倍の大きさで作られており、その威容を見た住民は思わず「すごいね」「立派だね」という屈託のない感想を口にし、それをきっかけに互いの頑張りや苦労を素直にたたえる言葉も引き出されました。このアートワークは、優れた造形によって人を感動させることではなく、「大切なものがそこにあること」でコミュニケーションの場を生みだし地域の人々がお互いに絆を強めることの役割を果たしたのです。
レンズを合わせる
ビデオアーカイブや立体彫刻の制作など、プロジェクトの主な担い手はデザインを学ぶ大学生です。そのほとんどは2011年当時小学生で、直接被災した人、影響がなかった人、また復興支援に携わってきた人も、そうでない人も含まれます。このように、姿勢もモチベーションも異なる人たちが、現場に赴き、時間を共有しながら、プロジェクトに関わりました。その過程では、まるで各自が物事を見るメガネのレンズを合わせるように、課題に対する視点、光の当て方を探る姿が見られます。ここにデザインを学び、研究することの一つの意義を見いだすことができます。
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先生情報 / 大学情報
宮城大学 事業構想学群 価値創造デザイン学類 教授 中田 千彦 先生
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