産業用ロボット、その開発のカギは職人の動きをつかむこと
職人の手技は難しい
産業用ロボットの目的とは、これまで人がやっていた作業を自動化することです。ですから、産業用ロボットは人の腕をモデルにできています。腕と同じ動きができるように3次元、つまり座標軸XYZの3方向に自由自在に動きます。さらに、回したり傾けたりできるように、人間の関節にあたる「軸」が合計6つあります。
ここで課題となるのが、人の動きを正確に再現することです。特に難しいのが、いわゆる「ベテランの職人の動き」です。
力の入れ加減や、当て方はどうなっているのか
例えば「鍛金(たんきん)加工」という、鉄などの板をハンマーで叩き、型を作り出す作業について考えてみましょう。職人はハンマーを何気なくふるって、鉄に叩きつけているかのように見えます。しかし、その動きをロボットに再現させるためには、どの位置に、どんな角度で、どれぐらいの力を込めて叩いているのかを知る必要があります。最初から最後まで同じだけの力を込めて叩いているのか、ハンマーが当たった瞬間に力を抜いているのか、あるいは当たってからさらに力を入れるのか、などの違いがあるでしょう。
もちろん職人の手技には理由があるはずです。ところが職人に尋ねても、返ってくる答えは「こういうものだから」ぐらいで、データが取れるような正確な力加減はなかなかわかりません。
作業の本質を見極めて、数値化する
データを取るために残された手段は、職人の作業風景を観察することです。職人のさまざまな動きを見て、6つの軸で考えたときにどのようになっているのかを見極めます。さらに計測装置を使って、例えば叩くときの力の強さを測定します。こうして職人の動きを、いろいろな数値に置き換えていくのです。
コンピュータを使い、これらのデータで産業用ロボットに動きを覚えさせます。センサーをつけて、それぞれの動きが正しく行われているかどうかを検証し、修正をかけていきます。世界でもトップレベルにある日本の産業用ロボットの精密さは、こうした緻密な技術が支えているのです。
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先生情報 / 大学情報
金沢大学 理工学域 機械工学系 教授 浅川 直紀 先生
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