サリドマイドの再評価が始まる
悪魔の薬サリドマイド
サリドマイドは、1957年ドイツのグリュネンタール社から、睡眠薬として発売された薬です。当初は、副作用のない安全な薬として発売されて、妊婦のつわり、不眠症改善のために多用されました。ところが、妊娠初期に服用すると四肢の全部、あるいは一部が短いなどの障がいのある子どもが生まれるという不幸な薬害が起き、大きな社会問題を起こし販売中止になってしまいました。
サリドマイドの再評価
そのように悪評判のサリドマイドですが、1965年にイスラエルで、偶然にもハンセン病という病気にともなう痛みの特効薬になるということが確認されました。さらに研究を続けると「血管新生阻害作用」があることがわかってきたのです。これは胎児に対しては、手足の毛細血管の成長をさまたげ、障がいを発生させる原因となっている可能性がある一方で、がん組織の毛細血管の成長を阻害するので、がんへの治療効果があることになります。このほかにも、エイズウイルスの増殖抑制や、全身に潰瘍ができる難病「ベーチェット病」にも効果があるなど、発売時の効能とは異なる効能で再評価を受けはじめたのです。そして、2008年に日本の厚生労働省はサリドマイドを血液がんの一種である「多発性骨髄腫」の治療薬として承認しました。「多発性骨髄腫」は、骨髄で腫瘍性形質細胞が増殖してしまう病気で、従来は治療が非常に難しい病気だったのですが、サリドマイドはこの患者さんに福音をもたらしてくれたのです。
サリドマイドの今後
このようにサリドマイドは、さまざまな再評価を受けていますが、障がいのある子どもが生まれてしまう危険性は今も残ったままです。その後の詳しい研究によってサリドマイドには、鏡に映したような対称の関係になっている右手型と左手型が存在することがわかり、それぞれの薬としての効果が異なることもわかってきました。多くの研究者が、この点に注目し、副作用の恐れがない、安全なサリドマイドを開発すべく日夜研究に取り組んでいます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
名古屋工業大学 工学部 生命・応用化学科 生命・物質化学分野 教授 柴田 哲男 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?