化学×数学の力! 10の60乗の化合物から最適解を見つけ出す

新薬開発をスピードアップ
「データ化学工学」は、化学を対象としたAIのモデルを作り、モデルを用いて化合物を予測する新しい学問領域です。例えば新薬の開発では、薬になりそうな化合物を合成してその効果を評価しますが、薬として世に出るのは2万回実験してやっと1つだといわれています。ここでデータ化学工学の出番です。最初に30回程度実際に実験を行って、化合物の化学構造や分子量などのデータと、合成方法のデータ、できた化合物の評価データから、AIのモデルを作ります。一般的にAIを作るには大量のデータを学習させますが、工夫することで30個のデータからでもモデルを作ることが可能です。このモデルで2万種類の化合物の評価を計算して、評価の高いものをピックアップすれば、実際に実験する回数を大幅に減らすことができます。
全化合物10の60乗種類を網羅
モデルで計算するのであれば、2万種類といわず3000万種類の化合物の評価も可能です。ところが、理論上存在しうる化合物の種類数は低く見積もっても10の60乗個あるといわれています。最新のスーパーコンピュータあるいは量子コンピュータを使っても、10の60乗個のすべては計算できません。そこで考案されたのが、「逆方向に計算する」AIモデルです。これまでは10の60乗個のうちの、任意の2万個の化合物の中から欲しい性質のものを計算するというものでした。これに対し、欲しい性質からそれに最適な化合物を計算することで、10の60乗個のすべてを対象にできるのです。
開発から製造までを一つの数式に
こうしたAIモデルは、新薬開発に限らず電池や半導体などさまざまな化合物の探索に使える上に、化学以外の用途にも応用が可能です。また逆方向のAIモデルは、プラントや工場の制御にもそのまま使うことができます。作りたい製品の品質から、温度や圧力といった製造工程を計算すればよいのです。
将来的には、実験室での開発から工場での製造までを一つのモデルにすることが目標とされています。
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明治大学理工学部 応用化学科 教授金子 弘昌 先生
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