石鹼膜の幾何学「極小曲面論」とは?
自然が作る、軽く強く安定した形
微分幾何学は、微分積分を使って図形の曲がり具合を調べる、幾何学の一分野です。図形の各点ごとに接ベクトルや直交するベクトルを描き、それらを微分することで曲がり具合を計算します。
微分幾何学の研究対象に極小曲面があります。ワイヤーで輪を作って石鹸水に浸し、持ち上げると石鹸膜が張ります。この膜に働く表面張力により、表面積が最も小さい状態で安定するのが自然界の摂理です。このような曲面は極小曲面と呼ばれ、数式で表現することができます。極小曲面は軽くて安定して強度のある形という性質があるため、建築設計、界面などの化学研究、人工骨の開発などさまざまな領域で活用されています。
意外な繋がりが数学の面白さ
極小曲面の研究は、18世紀の数学者ラグランジュが、曲面が満たす方程式を証明した頃から、大勢の数学者が取り組んできました。ラグランジュの方程式は複雑な微分方程式であり、18世紀にはほとんど解を見つけることができませんでした。19世紀に入って複素数の理論が整備され、その成果を適用することで容易に解を見つけられようになり、新しい極小曲面が多数発見されました。そして、一見関係のなさそうな石鹸膜と虚数が繋がっていたことが分かったのです。このように全く異なる理論だと思っていたことが、掘り下げてみると繋がっていることがあるというのが数学の面白いところです。
極小曲面の全体像
近年は、コンピュータを使って曲面を描いたり、近似解を求めたりすることもできるようになりました。1980年代頃から極小曲面の新しい例がたくさん発見されるようになり、現在も大勢の研究者がさまざまな分野の成果を適用して研究を続けています。
理論的には、極小曲面のほとんどが対称性を持ちません。しかし、対称性がないと方程式が複雑になるため、現在知られている極小曲面の多くは対称性の高いものばかりです。つまり現状では極小曲面の全体像のごく一部しか明らかになっておらず、対称性の壁の向こうに未踏の領域が広がっていると言えます。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 数学科 教授 藤森 祥一 先生
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