頭の中の「ものさし」
人間は生まれながら数学的な能力を持っている
生後5カ月くらいの赤ちゃんが、足し算ができるかどうかと尋ねられたら、多くの人が「できない」と答えるのではないでしょうか。ところが、ある実験によって「できる」ことが証明されました。まず、赤ちゃんの目前のテーブルに、1個の人形を置きます。次に、テーブルをつい立てで隠した状態で、もう1個の人形を置きます。あなたなら、人形が見えなくても2個あると判断し、もしつい立てを取ったときに人形が1個しかなかったら、「あれっ?」と不思議に思って、人形をじっと見ると思います。実は、実験で赤ちゃんも同じような反応をしたのです。この結果から、赤ちゃんも足し算ができ、数が増えていることを認識していると考えられます。人間は生まれながら高い数学的能力を持っているのです。
頭の中の「数直線」が数を認識
私たちは数字を書くとき、左から右に1~9と並べていきます。頭の中にも同じような「ものさし」があり、この数直線を使って数を判断し、足し算や引き算をしているのです。この数直線の状態を調べる方法も開発されています。ランダムに提示される2つの数字から、数が大きいほうを選ぶという作業を何度も繰り返していく実験で、その人の数直線の正確さや曖昧さなどがわかります。小学生に実施したところ、頭の中にある数直線がきれいに並んでいる子ほど算数の成績がよい傾向にあり、数直線と数学的能力との関連も示されています。
認知の仕組みを、教育現場に活用
頭の中にある数直線を調べるこの方法を、教育現場へも導入しようという試みが始まっています。就学前の子どもに実施することで、もともと数の処理が苦手な子どもが把握できれば、入学後の学習支援のヒントにもつながります。また、何度も行っていると数直線の並びが整ってくることから、数学的な能力を身につける教材として使うこともできます。このように、心理学の知見を用いて、教育を改善していこうという研究は、世界的にも注目されています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 現代システム科学域 心理学類 教授 岡本 真彦 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
心理学、教育心理学、認知心理学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?