肥料がなくても大丈夫! 細胞を変化させるシアノバクテリア

バクテリアの光合成
光合成は、太陽のエネルギーを使って大気中の二酸化炭素から有機物を作り出し、酸素を放出するプロセスです。実は植物だけでなく、「シアノバクテリア」と呼ばれるバクテリアの一種も光合成を行います。さらに、一部のシアノバクテリアは窒素固定という特別な能力を持ち、空気中の窒素をアンモニアに変換できます。酸素、窒素、炭素は、生物が体を作るために欠かせない3つの要素であり、シアノバクテリアはそのうちの2つ、酸素と窒素を空気から取り込むことができるのです。
細胞変化の謎
シアノバクテリアの中には、細胞が鎖のように連なっているものがあり、周囲の環境に窒素が不足すると、連なった細胞の約10個に1個が、ヘテロシストという「窒素固定専用の細胞」に変化します。窒素固定はニトロゲナーゼと呼ばれる酵素によって行われますが、この酵素は酸素があると機能しません。光合成で酸素を作り出す細胞と、窒素を作るヘテロシストは別々に機能する必要があるため、窒素固定専用の細胞に変化すると考えられます。ただし、どの遺伝子がこの変化を引き起こしているのか、またどうやって変化する細胞が選ばれるのかについては、まだ多くの謎が残されており、今後の研究が待たれます。
持続可能な農業に活用
シアノバクテリアは、ほかの植物と共生できます。例えば、浮草の一種であるアゾラは、シアノバクテリアとの共生によって肥料を使わずに成長できます。これが水田に繁殖すると、雑草の発生を抑える上に窒素の供給源にもなるため、アイガモ農法などと共に環境に優しい農業で活用されています。さらに、シアノバクテリアが共生していない植物にもこの能力を導入できれば、窒素肥料を使わない持続可能な農作物の生産が可能になるでしょう。
シアノバクテリアのようなシンプルな生物の研究を通じて、細胞が別の種類の細胞に変化するメカニズムを解明できれば、人間のような、より複雑な生物の細胞の研究にも応用できる可能性を秘めています。
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