ハエの羽に模様ができる仕組みとは? 進化で生じた新奇性の謎
ないものが生まれる、新奇性の進化
生物は進化によって多様性を生み出してきました。進化の過程で今までになかった性質が生じることを、生物学では「新奇性」の進化といいます。新奇性が現れる背景を調べるために、その性質を持つ個体と持たない個体の比較研究が行われています。研究対象のひとつが、世界中に4千種類以上が生息しているショウジョウバエです。キイロショウジョウバエのように羽に模様がないものと、ミズタマショウジョウバエのように羽に模様があるものを比較し、模様を作る遺伝子の正体や、その遺伝子を働かせるために生じた変化などが研究されています。
羽の模様はなぜできた?
2種類のハエを比較すると、どちらにも模様のもととなるメラニン色素の合成に必要な遺伝子が存在しているとわかりました。幅0.2mmほどの卵に生物由来の蛍光タンパク質の遺伝子を注入して飼育します。観察したい遺伝子が働く場所を光らせることで、遺伝子が機能している場所を比較できます。ミズタマショウジョウバエでは色素合成の遺伝子が働いて羽に模様が作られますが、キイロショウジョウバエでは遺伝子が働かないため、模様が作られません。新しい遺伝子によって模様が作られたのではなく、もともとある遺伝子の使い方が変わったために新奇性が生じたといえます。
部位ごとに違う遺伝子のチーム
これまでは、模様を作るなど特定の働きをする遺伝子を別の部位で働かせると同じ特徴を発現できると考えられていました。しかし研究が進み、その仮定が見直されつつあります。模様を作るためには、模様の場所を決めるタンパク質や色素合成をする酵素などのさまざまな遺伝子が必要で、複数の遺伝子がチームを組んでいます。しかし同じ役割を担うチームでも、リーダーやメンバーは部位ごとに違います。例えば腹部と羽ではそれぞれ専門の模様形成チームが編成されているため、リーダーだけを移動させても意味がありません。新奇性の進化の仕組みを解明するためには、リーダーの遺伝子だけでなく、チーム全体としての分析が必要なのです。
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北海道大学 地球環境科学研究院 環境生物科学部門 教授 越川 滋行 先生
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