人間の文化から知る昆虫の餌-昆虫の生態から、人間は見えるのか
クロスズメバチを育てて食べる地域の文化
長野県や岐阜県、愛知県の中山間地域では、クロスズメバチのことを「ジバチ」や「ヘボ」と呼び、幼虫や成虫を食材として使うべく、人間が飼育をする文化があります。有名な料理は「へぼ飯」で、農林水産省の「うちの郷土料理」というサイトにもレシピが掲載されています。
研究者よりも先に地元の人は知っていた
実は、生物学や昆虫学の世界では、クロスズメバチの食性については「主に昆虫を食べ、小動物の肉も食べることがある」という程度の断片的な知見しかありませんでした。一方、クロスズメバチを飼育する地域の人々にとっては、鶏肉やカエル、ザリガニがクロスズメバチの餌となることは当たり前の知識として共有されています。例えば、それらの地域でかつて普通に行われていた「霞網(かすみあみ)」という鳥の目には見えにくい網で小型の鳥を捉える狩猟の中で、地域の人はクロスズメバチが鳥の死体を食べている姿を目撃しています。日本の地方で行われていた食文化を調べることで、クロスズメバチの食性が具体的にどのようなものなのかが見えてきました。
そこで、生態学の観点から野生のクロスズメバチの幼虫を解剖し、腸の内容物のDNAを解析して調べてみると、野生のイノシシやシカ、ハトを食べていたことがわかり、地域の人々が経験則で理解していた「クロスズメバチは動物の肉を食べる」という食性は正しいことが明らかになりました。
昆虫の生態から人間の文化を明らかにする
「昆虫の研究」と聞いたとき、特定の昆虫を観察したり、ときに解剖してその生態を調べたり、DNAから系統進化を調べたりする研究を思い浮かべるかもしれません。しかし、そうした研究のあり方だけでなく、人間の文化を突き詰めて調べていくことで、昆虫の生態が明らかになることもあり得ます。逆に、例えばスズメバチの駆除方法や昆虫食など、昆虫の生態と人間社会との接点を調べることで、人間の文化に対して新しい見方を提示することもできるかもしれないのです。
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神戸大学 国際人間科学部 環境共生学科 助教 佐賀 達矢 先生
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