講義No.11605 スポーツ・健康科学 理工系その他

100m以上素潜りできるヒトのカラダのヒミツ

100m以上素潜りできるヒトのカラダのヒミツ

素潜りの際に生じる体内の変化

空気タンクを用いない潜水は「素潜り」と呼ばれますが、この素潜りを、ルールを作って競技化したものは「フリーダイビング」または「アプネア」と呼ばれていて、2021年時点での日本記録は水深115メートルです。その深さまで潜り、浮上するまで一度も呼吸しないフリーダイビング競技者の体内では、一体何が起こっているのでしょうか? 
ヘモグロビンに対する近赤外線の吸光特性を応用して、人体のある限られた部分の血液量変化を観察できる装置に、特殊な耐水耐圧加工を施したウェアラブル機器を作製して、潜水中の競技者の腕と脳の血液量変化を測定すると、潜水し始めた直後から、それまで腕に配分されていた血液が制御され、代わりに生命維持に最も重要である脳の血液が増加していました。身体の血液配分に変化が生じていたのです。

特別なヒト?

それでは、素潜り中の身体の血液配分変化は、競技者だけに観察される特別な現象なのでしょうか? 一般の方を対象とした実験では1〜2割の方に、競技者と同傾向の血液配分変化が観察されました。しかし一方でまったく変化しない方も1〜2割いました。他の哺乳類や脊椎動物の傾向から考えると、このような現象を生じさせる能力は、誰にでも潜在的に備わっていると思われます。しかしこの潜在能力をうまく引き出せる方と、そうでない方がいると考えられています。うまく引き出せる方は、潜水の素質があるということも出来ますし、うまく引き出せない方も、適切な訓練を行うことによって、引き出せるようになる可能性も十分にあるでしょう。

ヒトの中に眠る水棲能力

素潜り中に生じる身体の血液配分変化を目の当たりにすると、陸棲哺乳類である私たちヒトの中にも、素晴らしい水棲能力が眠っていることを感じます。そしてこの不思議な現象の潜在能力は、あなたの身体の中にもきっと備わっています。ヒトにとって最も身近な異世界である海中へ出来る限り自然な形で赴くと、あなた自身が持つ海に対する様々な考えも変わってくるかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 藤本 浩一 先生

東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 藤本 浩一 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

スポーツ生理学、潜水生理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

学問の最大かつ唯一のモチベーションは「楽しさ」だと思います。その楽しさは、苦労を苦労と思わないレベルです。私の行う素潜りの研究は身体の危険をともないますが、もしこのような危険があれば、それを安全にマネジメントできる範囲内で、あなたが好きなこと、心から楽しいと思うことに挑戦し、取り組んでほしいと思います。
「没頭」できる力が備わっていればさらにいいです。そのくらいやれれば、どんな困難にぶつかっても生きていけます。心の底から楽しむ力さえあれば、なんとかなるものです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。