100m以上素潜りできるヒトのカラダのヒミツ
素潜りの際に生じる体内の変化
空気タンクを用いない潜水は「素潜り」と呼ばれますが、この素潜りを、ルールを作って競技化したものは「フリーダイビング」または「アプネア」と呼ばれていて、2021年時点での日本記録は水深115メートルです。その深さまで潜り、浮上するまで一度も呼吸しないフリーダイビング競技者の体内では、一体何が起こっているのでしょうか?
ヘモグロビンに対する近赤外線の吸光特性を応用して、人体のある限られた部分の血液量変化を観察できる装置に、特殊な耐水耐圧加工を施したウェアラブル機器を作製して、潜水中の競技者の腕と脳の血液量変化を測定すると、潜水し始めた直後から、それまで腕に配分されていた血液が制御され、代わりに生命維持に最も重要である脳の血液が増加していました。身体の血液配分に変化が生じていたのです。
特別なヒト?
それでは、素潜り中の身体の血液配分変化は、競技者だけに観察される特別な現象なのでしょうか? 一般の方を対象とした実験では1〜2割の方に、競技者と同傾向の血液配分変化が観察されました。しかし一方でまったく変化しない方も1〜2割いました。他の哺乳類や脊椎動物の傾向から考えると、このような現象を生じさせる能力は、誰にでも潜在的に備わっていると思われます。しかしこの潜在能力をうまく引き出せる方と、そうでない方がいると考えられています。うまく引き出せる方は、潜水の素質があるということも出来ますし、うまく引き出せない方も、適切な訓練を行うことによって、引き出せるようになる可能性も十分にあるでしょう。
ヒトの中に眠る水棲能力
素潜り中に生じる身体の血液配分変化を目の当たりにすると、陸棲哺乳類である私たちヒトの中にも、素晴らしい水棲能力が眠っていることを感じます。そしてこの不思議な現象の潜在能力は、あなたの身体の中にもきっと備わっています。ヒトにとって最も身近な異世界である海中へ出来る限り自然な形で赴くと、あなた自身が持つ海に対する様々な考えも変わってくるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 藤本 浩一 先生
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