細胞や高分子を捕らえて操作! ナノ世界の工具「光ピンセット」
光の知られざる「力」を応用
レーザーの光を集めて細胞などナノメートル級の微小な物体をその焦点位置の近くにとらえ、さらに動かすことを可能にした「光ピンセット」の技術が注目されています。1990年代のレーザービーム技術の進展にともない光ピンセット技術も発展し、生物学などへの応用が盛んになりました。光ピンセットはいわゆる光の力(Photon force/radiation pressure)を使います。光にはものを見る・ものを暖める・植物の光合成のように化学反応を起こす作用がありますが、光ピンセットは今まで注目されていなかった光の力学的な力を応用しています。
微小なものにはソフトな力がマッチする
光は波であると同時に粒子の集まりです。人間の体にボールが当たると力の作用で衝撃を受けるように、光の粒も物質に当たると圧力を及ぼしますが、10億分の1~100億分の1ニュートン程度で非常に微弱なため、私たちが日常で光の力を感じることはありません。しかし小さいものほど、小さい力でも影響を受けるので、赤血球やバクテリアなどの細胞や微生物などは光の力で十分に動かせます。光の微小な力なら微小物体をふわっとソフトにつかんで、ダメージを与えることなく所定の位置に動かせるのです。
DNAレベルを自在に操作できる時代へ
光ピンセットの技術はバイオ研究分野で、細胞同士を動かしてくっつけたり、細胞の中に別の遺伝子物質を入れたりすることによく使われています。環境学の分野では、川の水の中に数種類の微粒子が混在するとき、光ピンセットを使えば個々の粒子を選別して分析できます。
現在では、より小さな高分子化合物やDNAなどをつかんで操作するために、金属中の電子の「さざ波」を利用して光の力を1万倍に増幅した「プラズモン光ピンセット」の研究が進んでいます。DNAを自在に動かして1枚のチップに大量に配置できるようになれば、何百人分ものがん遺伝子の検体検査が一度で可能になるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 理学部 化学科 教授 坪井 泰之 先生
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