講義No.11538 医学 薬学

ゲートウェイを攻略せよ! 神経の仕組みを利用した病気の治療

ゲートウェイを攻略せよ! 神経の仕組みを利用した病気の治療

「病は気から」は科学的にも正しい

私たちの体は、加齢やストレスにより神経回路が活性化すると、血液細胞が組織に侵入するゲート(入り口)を血管に作ります。これを「ゲートウェイ反射」と呼びます。血液中には病原体から身を守る免疫細胞が多数存在しますが、これらもまた加齢やストレスにより自己攻撃性を持つようになります。攻撃性を持つ免疫細胞が開いたゲートから組織内に入り込み、炎症を引き起こすことがあります。原因がストレスにもあるという意味では、「病は気から」ということわざもあながち間違っていません。

「炎症」は大部分の病気に関わっている

炎症というと「少し腫れるだけ」という場合もありますが、アレルギーやがん、自己免疫疾患、アルツハイマー病など、様々な病気に関わっています。COVID-19、いわゆる新型コロナウイルス感染によるサイトカインストームも炎症が一因です。
ゲート付近での炎症は、免疫関連タンパク質であるインターロイキン-6(IL-6)の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化することから始まり、その際IL-6アンプはそれぞれの臓器で特別な因子も発生させます。最先端の量子技術を使うとこの因子を検出することができ、さらに細胞の活動状況を画像で見ることができるPET検査に応用展開すれば、各臓器の炎症の早期発見が可能になります。

新しい治療法への期待

ゲートは神経回路に人為的な刺激を与えることで閉じさせることも可能なため、ゲートウェイ反射は炎症の神経モジュレーション医療(神経回路に人為的な刺激を与える治療法)となりえます。この方法で慢性炎症性疾患やCOVID-19の治療薬が期待されていますし、人間の体内の隅々の神経を利用してほかの疾病治療にも応用できます。アメリカではすでに脳と末梢器官をつなぐ迷走神経への刺激で関節リウマチや炎症性腸疾患を治療する臨床研究も始まっています。ゲートウェイ反射を利用する治療方法は簡単に言えば神経を刺激するだけですから、既存の治療法よりコスト的に低く、安全性も高いと言えます。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子神経免疫学部門 教授 村上 正晃 先生

北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子神経免疫学部門 教授 村上 正晃 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

免疫学、病理学、生理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

最近、日本の研究開発力は他国に比較すると弱まっているので、一人でも多くの人に研究者を志してもらいたいです。特に基礎医学研究は、臨床応用も可能で、研究自体が病気治療までがつながっている、とてもやりがいのある分野です。
また研究者に限りませんが、社会で生き抜く力を身につけるには、勉強だけでなく、世の中の幅広い物事に興味を持つことが大事です。画期的なアイデアは日々の経験の中から生まれます。そして、もし自分が興味を持てることに巡り合えたら、それを粘り強く続けてください。必ず大きな発見と成功があるはずです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。