森林の再生に欠かせない、倒木や幼樹「レガシー」
気候変動により森林破壊が増加
地球の温暖化と気候変動によって、最近は日本も以前に増して強大な台風や豪雨の頻度が増えました。そのため、森林では樹木が強風で倒れたり損傷する「風倒」や、樹木をのせたまま土壌が滑り落ちる「崩壊」が以前よりも多く発生しています。具体的に何が要因で起こるのか解明したり、リスクを予測するための研究が行われています。また、風倒後や崩壊後の森の再生について研究が行われています。
風倒の要因を調査分析
風倒予測の研究では、風倒がいつどこで発生したかという情報をもとに、まず破壊された樹木の調査を行います。これが「応答変数」になります。いっぽうで、破壊されたときの気象場を再現して総雨量や風速などの気象変数を算出します。また、破壊された森の地形(尾根や谷)も調べて地形変数とします。さらに、倒れる前の樹木の種類や林齢などは森林変数です。これらが「説明変数」になります。応答変数と説明変数の関係を解析して倒れやすい森林の条件を予測します。
北海道での研究の結果、大雨が降る台風のときは、地中深くにまっすぐ根を張るタイプの樹種が倒れやすいことがわかりました。これは通説に従わない結果で、今後はその原因の追究が期待されます。
森林再生には「レガシー」が重要
風倒にあった森の回復には、林床(森林の下層部)に残されたまだ若い樹木、実生・稚樹・幼樹が重要であることもわかりました。これら以外にも、倒壊した森の林床には倒れた幹や根などが遺されており、すべて「レガシー」と呼びます。風倒の後、何も手を加えなかった風倒地では自然に幼樹が成長して15年後には若い森へと再生しました。一方、レガシーを取り払い、新たな苗木を植林した風倒地では、15年後も森は再生しませんでした。
こうした結果からこれまでの森林管理について見直されつつあり、レガシーを生かして森を再生する取り組みも始まっています。生物多様性の保全や、気候変動の緩和を具体化して、健やかな地球環境を未来へ引き継ぐためにこうした森林再生はとても重要です。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 農学研究院 教授 森本 淳子 先生
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