コンピュータにも応用できる知性 不思議な生物「変形菌」
迷路内で2点の最短距離を求める方法
単細胞生物にはどの程度の知性があるのでしょうか? 「変形菌」という原生生物は、ゾウリムシやミドリムシと同じ単細胞生物で、コンピュータにも応用できる知性を持っていると考えられています。それを裏付ける実験として、光のない暗い場所で一辺が4~5センチの迷路内に変形菌を置きます。迷路内の任意の2点に餌を置くと、変形菌は迷路全体にアメーバ状の体を広げますが、やがて全体に広がった体は2点を結ぶルートに集約されていきます。つまり、この方法を使えば迷路内で2点の最短距離を求めることができるのです。
カーナビにも応用できる変形菌のアルゴリズム
細胞レベルの生物にも知性があることがわかっても、変形菌がどのような計算、情報処理をしているのかは不明です。変形菌は無意識の情報処理で2点の最短距離を割り出していると考えられます。この無意識の情報処理については人間も日常生活で行っています。例えばキャッチボールで相手が投げた球がどこに届くかは、慣れればほぼ瞬時に判断できるようになります。コンピュータのように二次方程式を計算して放物線の軌道を割り出しているわけではありません。変形菌の無意識下で働いている計算や情報処理がわかれば、カーナビや都市における複雑な鉄道網の設計など、新しい情報処理の技術として応用できるようになるでしょう。
まだまだ謎だらけな変形菌の生態
変形菌は基本的に野外に生息している生物です。実験で変形菌を使うときは、最適な温度で苦手な光を遮断するなど、安定的な環境を再現していますが、自然界ではそうはいきません。過酷な環境で変形菌がどのように繁殖しているのか、実はまだ解明されていないのです。
私たちは知性を意識的な思考としてとらえがちですが、変形菌のような無意識の情報処理の方法もあります。人間の知性も変形菌の知性もつながっていると考えると、変形菌の生態と知性を解き明かすことは私たちの知性の根源を解明することだと言えるでしょう。
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北海道大学 電子科学研究所 知能数理研究分野 教授 中垣 俊之 先生
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