北海道の酪農危機の問題はどこにあるのか

北海道の酪農危機の問題はどこにあるのか

酪農の危機

ウクライナ情勢の影響で輸入穀物価格が高騰し、北海道の酪農が危機的状況にあります。コロナ禍での牛乳消費の減少もあり、ニュースでは生乳を廃棄する様子が報じられたり、「牛乳を飲み、料理に使いましょう」と呼びかけられたりしています。しかし酪農家の切実な訴えがある一方、消費者は毎日大量に牛乳を使うのは難しいと思っている人も多いかもしれません。そもそも牛乳が、需要の変化に迅速に対して供給量を調整しにくいのはなぜでしょうか。

問題はどこにある?

北海道の酪農の本格的な振興は、1954年からアメリカの大規模酪農を手本に始まりました。乳量の多いホルスタイン種を栄養価が高い輸入穀物で効率よく育て、牛乳の大量生産をめざす形態です。これは高度経済成長とともに普及するも、リーマンショックによる輸入穀物価格の高騰でピンチになりました。この経験もあり酪農家は「飼料を輸入に頼るのはリスクが大きい」と懸念していましたが、やがて価格が安定したため、その後も同じ形態が続きました。さらに2010年代、中国の需要増などによる世界的なバター不足を起因に、日本政府は「生産量をさらに増やす」という方針を出し補助事業も行いました。当時から国内需要は減少傾向でしたが、これにより「輸入依存型で、大量生産しないと成り立たない酪農」がさらに進んでしまったのです。つまり今回の酪農危機の大きな問題は、日本の酪農が需要と供給のバランスがとれる持続可能なビジネスモデルになっていない点にあります。

持続可能な酪農へ

解決策のひとつとして、自給飼料を最大に活用した酪農への移行があります。地元の牧草やえさで牛を育てる酪農形態で、輸入穀物よりも低コストで牛を育てられ、牛乳も安くなるというデータがあります。そうなれば規模が小さくても経営が成り立ちますが、移行には10年単位の時間が必要です。その間、大量生産のために設備投資した酪農家を支援する仕組みがないと酪農家は経営破綻してしまいます。将来の酪農の担い手のためにも、国全体での支えが必要なのです。

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北海道大学 農学研究院  准教授 小林 国之 先生

北海道大学 農学研究院 准教授 小林 国之 先生

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農業経済学

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メッセージ

大学選びにあたり、文理選択に迷うことがあるかもしれませんが、世界が文系と理系に分かれているわけではありません。わからないことを解き明かそうとするときに、必要なアプローチの手法が文系的だったり理系的だったりするのです。その点では、農家の人たちは技術者であり、経営者であり、哲学者であり科学者でもあります。農業を理解しようとするとき、文理どちらの学びも役に立つのです。
ぜひ、自分のなかにある「なぜ?」「これが知りたい」という気持ちを、学びにつなげてほしいです。

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北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。