カギは「湯の花」~地熱発電の発展を加速させるために~
エネルギー問題解決に期待される地熱発電
世界有数の火山国である日本は、地下のマグマの熱を利用した「地熱発電」がエネルギー問題の解決に貢献すると期待されています。地熱発電は、マグマで温められた地下水を地上に汲み出し、蒸気でタービンを回して電力を発生させるシステムですが、これには大きな課題があります。地下水に含まれる炭酸カルシウムやシリカ、硫黄などの成分は「湯の花」とも呼ばれ、温泉水の濁りのもととなっています。この湯の花がパイプやタービンに付着して発電効率を下げてしまうのです。この付着物を「スケール」と言い、問題を解消するための研究開発が進められています。
「湯の花」は地域ごとに異なる
地熱発電設備には、鉄にクロムやモリブデンなどを混ぜて強度や耐食性を高めた鋼材が主に使われています。地下水に含まれる塩分やその他の成分によって、通常の使用であればさびにくいステンレス鋼でもさびてしまいます。さびた部分には湯の花がつきやすいため、表面処理してさびを抑制し、スケールを付着しにくくする鋼材の研究が進められています。作った鋼材の性能を評価することが必要となるのですが、ここで問題となるのが、地域によって発電に使用する地下水の成分、つまり湯の花の性質が異なることです。したがって現地で実験するしかなく、移動時間やコストがかかってしまうのです。
材料開発の実験速度を上げる画期的な装置
そこで、実験室内でそれぞれの地域独特の湯の花を作り出し、それを温水に混ぜて地熱発電設備に使われる金属に流してどのようにスケールが付くかを見るための装置が考えられました。
同じような成分であっても、その割合や地下水の酸性度、溶け込んでいる二酸化炭素の量などの条件によって、湯の花の分子構造、結晶構造が変わります。この装置では、そのような条件を変えながら、それぞれの地域特有の湯の花を再現できます。現地まで行く移動時間とコストを削減することで、地熱発電設備のスケールを溶かす薬剤開発や、材料開発が加速すると期待されています。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 准教授 盛田 元彰 先生
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