テクノロジーは医療を変えられるのか
がんの発見
がんの診断は、医用画像からがん特有の形状を見つけ出すことが基本です。しかし、医師の知識と経験による差があり、発見精度にはばらつきがありました。そこで近年、がんの画像診断にAIを活用する取り組みが進んでいます。AIによる画像診断は、一定の精度を確保しながら処理速度も速いという利点があります。とはいえ、AIが人命に関わる責任を負うわけにはいきません。現状ではAIは診断の補助にとどめて最終的な判断は医師が行っています。医療の均質化や医師の負担軽減にAIを役立てる一方、責任が伴う業務に導入することは慎重に進める必要があります。
データだけでは進まない
医療分野には、データサイエンスも大きく貢献しています。しかし、この場合もデータに頼るだけでは難しい課題が出ています。例えば、「子宮頸(けい)がんワクチン」は早期接種で子宮頸がんの発生率が激減することがデータで示されています。しかし、日本ではワクチンの積極的な勧奨が始まった時期に健康被害の報道が出たため、接種を避ける風潮が広まりました。厚生労働省は一時的に積極的勧奨を差し控えざるを得なくなり、現在では最新の知見を踏まえて再開しているものの、接種率は世界的に見ても非常に低い状況です。実効性のある医療政策には、データだけでなく、人々の感情への配慮が必要であることがわかります。
メリットとリスク
また、医療データの取り扱いにはリスクも潜んでいます。現在は医療の効率化を目的に電子カルテ化が進んでいますが、ある病院ではコンピュータシステムに対する悪意ある攻撃によって電子カルテのシステムが停止し、医師や看護師がいるにも関わらず治療ができなくなる事態が発生しました。病院のほか介護施設などで包括的に医療データを共有するシステムも、地域によっては既に稼働しており、その範囲が広がってデータ量が増えるほど情報漏えいなどのセキュリティリスクも高まります。メリットとリスクはトレードオフの関係にあり、慎重にバランスを考える必要があるのです。
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新潟医療福祉大学 医療経営管理学部 医療情報管理学科 教授 木下 直彦 先生
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