講義No.11587 水産学

人と魚と水との関係から漁業を考える

人と魚と水との関係から漁業を考える

江戸前のマハゼはなぜ減少したのか?

漁業は海の自然環境だけでなく、人間社会の変化にも影響を受けます。そのため、漁業の問題を解決するには人と魚と水の関係について理解を深めることが重要です。例えば、東京湾に生息するマハゼは60年くらい前までは沿岸の庶民にとってとても身近な魚でした。しかし、高度経済成長期になると生息域である浅場が埋め立てられていきました。その結果、漁獲量が減少してしまい、気軽に食べられる魚ではなくなりました。近年ではマハゼを再生しようという活動が市民によって取り組まれています。こうした活動は人間とマハゼの関係そしてマハゼを介した人と人との関係を再生する活動ともいえます。

東京湾で増えてきた新たな生物

東京湾では漁獲量が増加している種もいます。その代表例がホンビノスガイです。この貝は、アメリカから来た外来種で船のバラスト水によって日本に運ばれてきました。バラスト水とは貨物船などがバランスをとるために船底に入れる海水で、荷物を積むと港に放流されます。さらに港の開発でホンビノスガイに有利な環境が生まれました。大きな船を停めるために海底を掘って深くしたところ、そこに酸素の少ない水が溜まります。その貧酸素水が青潮となって拡散すると、アサリなどの貝は死んでしまうのですがホンビノスガイは貧酸素耐性があるので増加していったのです。こうして増加したホンビノスガイは、減少する国産二枚貝の代替商品として需要が高まっています。

漁業が持つ未来への可能性

このように漁業は、自然と社会の影響をうけるので不安定な産業といえます。また、水産資源は有限なので経済的な発展にも限界がありますが、弱い産業ではありません。これから日本は人口減少社会をむかえます。二次産業と三次産業は人口が産業の規模に直結しますが、漁業は豊かな自然があれば人口が少ない漁村でも維持していくことができる産業です。また、過疎化した地域を再生することができる数少ない産業のひとつであり、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。

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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 教授 工藤 貴史 先生

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水産学

先生が目指すSDGs

メッセージ

これから自分の道を切り拓いていくには、自分で好き嫌いや向き不向きを決めつけず、視野を広げることが大切です。まずは自分の生活が何によって支えられているのかということについて関心を持ってください。それから旅に出て自分の知らない世界の人々に出会うこともおすすめです。自分の目で見て、心で感じて、頭で考えて、体を動かしましょう。知識と経験が積み重なっていくなかで、あなたのやりたいことが明確になり、社会にどのように貢献していきたいかという進路が見えてくると思います。

先生への質問

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東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。