人と魚と水との関係から漁業を考える
江戸前のマハゼはなぜ減少したのか?
漁業は海の自然環境だけでなく、人間社会の変化にも影響を受けます。そのため、漁業の問題を解決するには人と魚と水の関係について理解を深めることが重要です。例えば、東京湾に生息するマハゼは60年くらい前までは沿岸の庶民にとってとても身近な魚でした。しかし、高度経済成長期になると生息域である浅場が埋め立てられていきました。その結果、漁獲量が減少してしまい、気軽に食べられる魚ではなくなりました。近年ではマハゼを再生しようという活動が市民によって取り組まれています。こうした活動は人間とマハゼの関係そしてマハゼを介した人と人との関係を再生する活動ともいえます。
東京湾で増えてきた新たな生物
東京湾では漁獲量が増加している種もいます。その代表例がホンビノスガイです。この貝は、アメリカから来た外来種で船のバラスト水によって日本に運ばれてきました。バラスト水とは貨物船などがバランスをとるために船底に入れる海水で、荷物を積むと港に放流されます。さらに港の開発でホンビノスガイに有利な環境が生まれました。大きな船を停めるために海底を掘って深くしたところ、そこに酸素の少ない水が溜まります。その貧酸素水が青潮となって拡散すると、アサリなどの貝は死んでしまうのですがホンビノスガイは貧酸素耐性があるので増加していったのです。こうして増加したホンビノスガイは、減少する国産二枚貝の代替商品として需要が高まっています。
漁業が持つ未来への可能性
このように漁業は、自然と社会の影響をうけるので不安定な産業といえます。また、水産資源は有限なので経済的な発展にも限界がありますが、弱い産業ではありません。これから日本は人口減少社会をむかえます。二次産業と三次産業は人口が産業の規模に直結しますが、漁業は豊かな自然があれば人口が少ない漁村でも維持していくことができる産業です。また、過疎化した地域を再生することができる数少ない産業のひとつであり、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 教授 工藤 貴史 先生
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