「親しさ」の表し方は言語によって違う? 日本語教育の役割とは

「親しさ」の表し方は言語によって違う? 日本語教育の役割とは

日本語教育学の役割

日本語教育学は、日本語を母語としない学習者の日本語の習得を助け、日本社会への参画や自己実現のために役立てられる学問です。学習者と日本人とのコミュニケーションのあり方を考えることも、その重要な役割です。あなたが将来、留学生と親しくなったとき、互いのコミュニケーション方法の違いを発見するかもしれません。例えば謝るべき場面で友達が謝らなかった場合、多くの日本人はモヤモヤとした感情を抱きますが、親しい友人に謝ることを「水くさい」ととらえ、あえて避ける国や文化もあるのです。日本語教育学ではそうした違いをまず明らかにし、教育にどう生かすかを考えます。

「礼儀正しさ」と「親しさ」

「礼儀正しく振る舞う」規範は明確に意識される一方、「親しさ」をどう表すかは意識化されにくく、違和感を覚えたときなどに自分の中の規範の存在に気がつきます。この「礼儀正しさ」と「親しさ」という異なるベクトルから、円滑なコミュニケーションについて考えることができる理論に「ポライトネス理論」があります。日本、中国、韓国の大学で友人に対する「頼み事」をテーマにポライトネスの違いを分析したところ、頼み事をする際にどの程度配慮を示すのか、互いの仲の良さをどの程度強調するのかなど、日・中・韓の特徴的な違いがいくつか見られました。

多様化が進む社会で

日本の学生が友人に頼み事をする際は、相手に配慮しながら頼む傾向がありますが、韓国の学生は、相手に配慮を示しつつも、お願い事の内容によっては相手との仲の良さを強調する「ポジティブポライトネス」を戦略的に用いる傾向があります。中国の学生は、配慮はあまり表現せずシンプルにお願いをし、仲が良い相手には押しが強いという傾向が見られました。
現在、日本では多くの国籍や文化をもつ人たちが学び、暮らしています。多様な背景をもつ人たちが互いに心地よいコミュニティを形成するためには、言語やコミュニケーションのあり方をさまざまな視点から研究して教育に生かす日本語教育学の役割が不可欠なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 教授 生天目 知美 先生

東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 教授 生天目 知美 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

日本語教育学、言語学、語用論

先生が目指すSDGs

メッセージ

言語としての日本語は、あなたが学校で学んだ国語とは違います。国語では定説となった規則を習いますが、言語学としての日本語では、私たちが話したり書いたりしている膨大な言葉がデータとなり、そこから規則を発見していきます。言葉の使い方が変われば規則も変わり、言語がまさに文化の一部であることを実感できます。
また、国際交流といえば、海外留学や海外旅行を想像するかもしれませんが、日本国内にも多くの外国人が暮らしています。自分の身近な”国際”の中でも簡単な日本語や英語を使って交流し、多様な価値観に触れてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。