タツノオトシゴのオスのお腹がふくらんでいるのはなぜ?

タツノオトシゴのオスのお腹がふくらんでいるのはなぜ?

オスが卵を育てる?

魚の世界ではオスが子育てをすることはそれほど珍しくありません。例えばヨウジウオ科に属するタツノオトシゴは、オスが育児嚢(いくじのう)という袋型の器官を持っています。ふくらんだ腹のように見えるやわらかい部分が育児嚢で、その中でメスから受け取った卵を育て、子どもを産みます。

育児嚢で生存率を上げる

ヨウジウオ科の魚のオスは全員が育児嚢を持っているため、これはヨウジウオ科の生存戦略のひとつだと考えられています。原始的な育児嚢は、身体の表面に卵をくっつけるタイプです。敵が来たときに父親と一緒に卵も逃げられるので、生存率が上がります。しかしヨウジウオ科の泳ぎは遅いため、敵に追いつかれて卵を食べられてしまうかもしれません。そのため自分の身体で卵を覆い隠すタイプの魚が出現した可能性があります。また、安全な体内で子どもが大きくなるまで育ててからかえす、タツノオトシゴのような魚も出てきました。タツノオトシゴの育児嚢はもっとも発達していると考えられており、この形成や進化の過程がわかれば、ほかのヨウジウオ科の育児嚢についても発見があると期待されています。

育児嚢はどう作られる?

ヨウジウオ科の育児嚢はまだあまり研究が行われておらず、謎が山積みになっています。そこで、まずは生まれたばかりのタツノオトシゴのオスの育児嚢が作られていく過程が研究されました。すると生後すぐは育児嚢がないものの、約1カ月後から腹側の尾びれがだんだんと盛り上がり、3カ月ほどかけて袋のような形になっていくことがわかりました。ただしまだ卵を持てる状態にはなっていません。その後、袋が少しずつ大きくなり、卵をやさしく包み込むような組織が内部に作られることもわかってきました。身体の表面を構成する真皮が別の細胞に分化して、育児嚢に必要な細胞になっていくと考えられています。しかしタツノオトシゴの育児嚢が形成されるメカニズムはまだ遺伝子レベルでは解明されておらず、さらなる研究が必要です。

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上智大学 理工学部 物質生命理工学科 准教授 川口 眞理 先生

上智大学 理工学部 物質生命理工学科 准教授 川口 眞理 先生

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生物科学、進化生物学、魚類学

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メッセージ

遺伝子という言葉を耳にする機会は多いと思いますが、すべての仕組みがわかっている遺伝子はあまりありません。わからないことを明らかにしようと日々研究を行っているので、関心を持ってもらえると嬉しいです。生物分野には多様な視点があり、遺伝子のようなミクロの世界があれば、生態系などのマクロな世界もあります。どのような視点でもいいので、あなた自身の興味を見つけることが大切です。現時点での興味を調べていくうちに別の興味が浮かんでくることもあって、どんどん世界が広がっていくはずです。

上智大学に関心を持ったあなたは

日本初のカトリック大学として開学し、創立当初から国際性豊かな大学として、外国語教育に重点を置いてきました。留学制度も充実しており、世界約80ヶ国に390校以上にも及ぶ交換留学・学術交流協定校があり、コロナ禍の2020年度、2021年度を除き、毎年約1,000人の学生が世界の様々な国や地域へ留学しています。また、少人数教育も本学の伝統のひとつです。教員と学生の距離が近く、また学生同士が率直に意見を交し合う、きわめて理想的な教育環境が整っています。他者を思いやり、社会に奉仕できる人材を育成します。