放流で成功したクロダイが教えてくれたこと
放流して増えすぎてしまったクロダイ
クロダイは、瀬戸内海で日本全体の約60%が捕れます。ただ一時期捕れなくなったため、1983年頃から稚魚の放流が行われるようになりました。放流は成功しましたが、今度は数が増えすぎてしまいました。クロダイは、昔は高級魚でしたが、今では値段が下がってしまって漁師さんが進んで捕ることはありません。それだけでなく、クロダイは養殖の牡蠣を食べるので養殖業者からは嫌われています。ただ、放流魚としては貴重なデータを提供してくれる魚です。一般的に放流で成功することは少ないため、成功の理由がわかればほかの放流魚の参考になるからです。
クロダイが増えすぎた理由
クロダイの放流は広島湾で行われていますが、そこには太田川から栄養豊富な水が流れ込んでいます。また、湾の半分くらいは塩分濃度が低い汽水(きすい)です。クロダイは海水領域で卵を産み、稚魚は汽水で育ちます。ほかの魚、例えばマダイは汽水には入り込むことはできません。そのため、クロダイが餌を独占できるのです。クロダイの回遊ルートは正確にはわかっていませんが、少なくとも広島湾の場合は湾の中でライフサイクルが成立しています。このようなことから、放流が成功して、クロダイの数が増えたと考えられます。広島湾のクロダイで、放流魚の占める割合は15%ほどです。これは、放流魚としては高い数字です。
クロダイは将来の放流の在り方を示唆する
クロダイに限らず魚の生態を知ることは簡単ではありません。しかし、増えることを期待してとりあえず放流しようというのでは、放流効果がどれくらいあるかも予測できません。そこで、できるだけ魚の生態を研究して放流を行うのがよいのです。その意味で急激に増えたクロダイは、最適な研究対象です。また、牡蠣を食べてしまうことや、増えすぎて値段が下がってしまい、漁業が成り立たなくなるなどの点から、クロダイは将来の放流の在り方を教えてくれる貴重な魚と言うことができます。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 准教授 海野 徹也 先生
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