土壌管理技術で二兎を得る! 食料生産と環境保全の両立
土は炭素の貯蔵庫
あなたの足元の土は何色ですか? 土の色が黒みを帯びて見えるとき、そこにはたくさんの有機物(炭素)が含まれています。土には地球上で海に次いで2番目に多く炭素が分布しています。地面から深さ約1メートルの土の中には、空気中の二酸化炭素の約2倍量の炭素が蓄えられています。そもそも「土」とは、岩石などが細かくなってできた粘土と、動植物の遺骸が微生物に分解される過程で生成した土壌有機物(腐植)などを含んだ複合体です。腐植が粘土と結合すると炭素が土の中に蓄積され、微生物に分解されると土から空気中に放出されます。土は、環境条件や管理方法によって、炭素の吸収源にも放出源にもなりうるのです。
堆肥を加えて農地に炭素を吸収
土を炭素の吸収源とするには、堆肥を加えることが有効です。例えば水田に堆肥を加える場合、堆肥に含まれる炭素を100とすると、そのうちの30~40がメタンガスとして空中に放出され、残りの20~40が土の中に蓄えられます。一方、化学肥料には炭素が含まれていません。化学肥料を使用した場合は、メタンガスがほぼ同じくらい発生するものの、土に炭素を蓄えられないので、堆肥を使うことで土に蓄えられる炭素の量を全体でプラスにすることができるのです。
炭素の貯蔵と持続的な食料生産
一方で、持続的な食料生産のためには、土の中の有機物を分解して植物の生育に必要な栄養分を供給する必要があります。土の中には、粘土と結合したものや構造が複雑なものなど、分解しにくい有機物が多く、微生物は常にエネルギーが足りない状態です。そこに落ち葉などの新鮮で分解しやすい有機物を加えると、微生物が増殖・活性化して難分解性の有機物が分解され、植物に窒素やリンなどが供給されます。これを「プライミング効果(分解促進効果)」と呼びます。
しかし、分解が促進されると同時に炭素も放出されてしまいます。そのため、養分を供給しつつ、土に蓄えられる炭素の量がマイナスにならないような、最適な土壌管理をめざした研究が進められているのです。
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先生情報 / 大学情報
宇都宮大学 農学部 生物資源科学科 助教 早川 智恵 先生
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先生への質問
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