環境問題を引き起こす社会的ジレンマ 解決のヒントは漁業にあり!
個人と社会の利益は違う?
環境問題や資源の枯渇を引き起こす原因のひとつに、「社会的ジレンマ」が挙げられます。自分にとって利益となるような意思決定が、社会全体の利益とは異なる状況です。例えば漁師がそれぞれ「もうけたいから」と必要以上に魚を取ると、漁業資源が枯渇してしまいます。
環境問題を引き起こす社会的ジレンマは、市場経済や政府主導の対策だけでは限界があります。そうした場合に有効な手段の1つとして挙げられているのが、漁業協同組合等に見られる資源利用者自身による「協同管理」です。自分たちでルールを決めて漁獲量を管理し、資源が枯渇しないようにしているのです。
チームで取り組むプール制
漁業には、漁獲量や水揚の収益を個人の漁獲にかかわらずグループ内で均等に分け合う「プール制」という制度があります。こうした制度下では他人の努力にタダ乗りするインセンティブが働くことが知られており、漁獲圧の高い漁業では資源の乱獲を抑止する効果があります。一方で、個人の利益を大きくするためにはグループ全体の利益を上げなければ実現できないため、漁師たちはグループ全体の漁獲量を上げるために協力して漁を行います。通常は秘密にするような漁場に関する情報等も積極的に交換するほどです。
経済実験で漁業を分析
では、プール制の参加者は常に全体の利益を優先しているのでしょうか。経済実験を用いて漁業者の協力行動が調査されました。被験者に現金が与えられ、その現金をそのまま持ち帰るかグループ全員のために使うかを決定してもらうというものです。実験の結果、プール制で漁をしている漁師と、そうでない漁師の選択に違いはなく、グループに協力せずそのまま自分のものにする人も多く見られました。この実験から、プール制に参加する漁師たちは利他的な経済活動を普段からしているわけではない、と考えられます。そのような人がなぜプール制のような協同管理に積極的になれるのか、理由を探るために漁業者の行動や市場の動向などを組み合わせた分析が行われています。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 若松 美保子 先生
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