プラスチックの代わりは「透明な木」? バイオマスから新素材を作る

プラスチックの代わりは「透明な木」? バイオマスから新素材を作る

環境にやさしい新素材

現代社会に欠かせない、プラスチックの原料である石油はいつか枯渇してしまうおそれがあります。そこで木や草といった再生可能な「バイオマス」をもとに新たな素材を作る研究が数多く行われています。バイオマス由来で、かつ生分解性のある素材は土の中や、海、川などの環境中で微生物が分解してくれるため、処分するときの環境への負荷も下げることができると考えられています。

木から透明なフィルムを作る

バイオマス由来の新素材としてブナやユーカリの木を使った木質フィルムが作られました。木から作られていますが紙のように薄く、ガラスのように透明です。細かく砕いた木の粉を溶媒に溶かし、それを乾燥させて作ります。木とほぼ同じ成分なので「透明な木」とも呼ばれています。
木は水には溶けません。それは木の繊維であるセルロースなどが水に溶けにくいからです。セルロースの分子内や分子間に強い水素結合が存在し、水と相互作用しにくいのです。水以外でもセルロースを溶解できる溶媒はあまり多くありません。そこで木粉を溶解できる溶媒の探索が行われました。その結果、ギ酸などの特定のカルボン酸を使えば、室温で数日かけて木粉が溶けていくとわかったのです。
温度を上げると速く溶かすことができますが、成分が一部分解されてしまい、出来上がったフィルムの強度が下がります。また、平滑なフィルムを作るためには溶液を乾燥させるときに自然乾燥させなければなりません。このように現状では1枚のフィルムができるまでに長い時間がかかるため、より効率のいい製造方法が模索されています。

プラスチックの代替品に

木質フィルムは高い強度を持っており、プラスチックの代替品にもなると期待されています。水に濡らせばしなやかになるため、折紙のように加工することも可能です。生分解性も高く、土の中に埋めた木質フィルムは約6週間で微生物に分解されます。
これらの特徴を活かして、環境にやさしく、私達の生活を豊かにする新たな素材となるように研究が進められています。

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先生情報 / 大学情報

金沢大学 融合学域 先導学類 講師 西脇 ゆり 先生

金沢大学 融合学域 先導学類 講師 西脇 ゆり 先生

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化学、環境学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校時代の決断が一生を決めるわけではありません。「これがいい」と思ったことがあれば、まずはその道に進んでみてもいいと思います。私自身もさまざまな道を歩んで大学教員になったので、そのときどきで考え抜いて決めた選択や縁を信じることも重要だと感じます。
また、私は企業で働いていた頃、「担当している商品以外にも目を向けよう」と言われたことがありました。専門分野以外の最先端技術や研究の情報を得ることは、自分の力になるはずです。「科学する心」を大切に、世の中の出来事や新しい知識に積極的に目を向けてほしいです。

先生への質問

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。