自然環境の変化を化学の力で解明し、地域社会との共生をめざす

自然環境の変化を化学の力で解明し、地域社会との共生をめざす

環境変化は地域全体に影響を及ぼす

北海道の浜頓別(はまとんべつ)町は酪農と漁業が盛んで、ラムサール条約の保護区に登録されているクッチャロ湖は、白鳥など渡り鳥の飛来地として人気を集めています。町の産業の1つにホタテの栽培漁業がありますが、近年漁場の環境変化がささやかれていました。その原因は海水温の上昇だけでなく、沿岸部の栄養分が自然の状態より増え過ぎた可能性が見つかりました。渡り鳥や農業地帯からくる有機物が河川から流れ込んだのです。原因がわかれば対策は講じられますが、浜頓別町では漁業だけでなく農業も観光も町の大切な産業で、環境を元の状態に戻すには地域の理解と協力が不可欠です。クッチャロ湖や河川での観測と分析を続け、結果を共有しながら、地域の実情に即した持続可能な解決への模索が続いています。

水田からメタンが発生!?

また、世界中で地球温暖化による環境変化が懸念されており、温暖化をもたらす二酸化炭素などの「温室効果ガス」のなかで、近年はメタンへの注目が高まっています。メタンは米の栽培過程でも発生しています。水田土壌中のメタン生成菌は、水田に水が張られて土壌中の酸素が不足すると活性化しメタンを排出します。そのメタンをイネの茎が吸い上げて大気中に放出してしまうのです。稲作では生育の途中で田から水を抜く「中干し」という作業を行いますが、その間はメタン排出が少なくなることがわかりました。しかし、次は別の温室効果ガスが出てきたりと、環境負荷の低減に向けた研究が続いています。

「安くておいしい」から脱却を

消費者にも、これら生産者の取り組みと同じくらい、環境を意識した商品選択が求められます。もちろん手間の分だけ価格に反映されますが、毎日食べる米を環境負荷の少ないものに変える人が増えれば、地球環境に与える効果も大きくなります。例えば、安くておいしい牛丼を食べるだけではなく、牛丼一杯による環境負荷を考えてみるのも大事なことです。地球温暖化や持続可能性を意識した行動につながる環境教育も大切なテーマです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

酪農学園大学 農食環境学群 環境共生学類 教授 吉田 磨 先生

酪農学園大学 農食環境学群 環境共生学類 教授 吉田 磨 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

環境科学、環境化学、地球化学、環境共生学

先生が目指すSDGs

メッセージ

環境を化学の眼で診断し、処方箋を書く「環境のお医者さん」を育てることが私の目標です。一人では無理なことも、大勢の力を結集すればきっとできるはずです。「環境のお医者さん」をめざし、共に学びながら持続可能な社会を実現しましょう。
お医者さんには専門知識だけでなく物事を俯瞰(ふかん)的に見る力が必要で、それは失敗を恐れず体験することで身につきます。木から落ちた実を拾って食べるのではなく、自らおいしそうな実を採りに行く、そんな主体的かつ能動的な毎日を過ごしましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

酪農学園大学に関心を持ったあなたは

北海道の政治・経済の中心都市札幌から快速電車で10分、本学はそこに132haの広大なキャンパスを構えています。世界の人口が増幅を続ける中、40%前後の我が国の食料自給率は、今後ますます問題となるのは確実です。そうした環境下にあって、大地を健やかに育て、健康な食物を育み、それを食して健やかな人が育つ。こうした「循環と共生」をテーマに掲げながら、学生一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出せるような教育を実践することを使命と考えています。