「農業用水」で作った電気で地域を活性化
里山農業地域が抱える問題
里山の農業地域の多くは高齢化、過疎化、農家の担い手不足、耕作放棄地の増加という問題を抱えています。若い農業従事者の定住は、それらの問題で疲弊した地域が元気を取り戻す、地域活性化の一つの解決手段になるでしょう。そのためには、ブランド農産物の開発や、労働を軽減するスマート農業の導入が望まれます。その手段の一つとして、農業用水を使った水力発電があります。
水力発電でイチゴ栽培
産学連携の取り組みを一つ紹介します。石川県の山間にある農業用水の排水を落差約11mで放水している個所があり、この落下点に小さな水車を設置して、水力発電が行われています。発電出力は6~10kWです。ここにビニールハウスを設置し、イチゴ栽培を始めました。内部を暖めるエアコン2機分の6 kWを水力発電でまかなっています。
余剰の電力は土壌温度を上げるための温水と、IoT(モノのインターネット)技術を使った監視システムの稼働用に使います。監視システムではハウス内の気温、CO₂濃度、日射量、土壌水分量がデータ化されるほか、発電を遠隔操作することもできます。イチゴ栽培は経験による技術習得が必要とされてきましたが、可視化されたデータにより若い農業従事者がチャレンジしやすくなります。
2050年の脱炭素社会に向けて
日本国内の農業用水路の延長は40万kmで、地球から月までの距離に相当します。これら水路の水を発電に用いることができれば、100万世帯分を超える電力量が得られます。現在の日本は電力網が「大規模集中型」の電力システムのため、災害で一つの発電所が停止すると、大規模な停電が起きてしまいます。地域で電気をつくる場所があれば、人々の生活を守ることができるでしょう。
2050年の脱炭素化社会に向かって、再生可能エネルギーを推進する必要があります。「小規模分散型」の水力発電の技術が確立すれば、例えば都市においてもビルの屋上に置いた雨水タンクから水を落とすことで発電するといったことができるようになるかもしれません。
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石川県立大学 生物資源環境学部 環境科学科 教授 瀧本 裕士 先生
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