環境にやさしい技術で作る、美しく高機能な次世代繊維

環境にやさしい染色
美しい色合いの衣服は私たちの生活を豊かにしてくれますが、染色工業の環境への負荷は小さくありません。1年間に世界の染色工業で使われる水の量は58億トンにのぼり、排出される廃液の量は全産業の20%を占めています。また、日本では年間50万トンもの衣料が廃棄されていますが、リサイクルのための脱色は工業化されておらず、脱色に使われる化学薬品を含んだ水や有機溶剤の廃液も問題です。
これらの課題を解決するものとして実用化が進められているのが、「超臨界二酸化炭素」を使った「水を使わない染色・脱色」です。気体と液体の両方の性質を持つ超臨界二酸化炭素は、条件を変えることで「染色の水」「脱色の水・有機溶剤」のどちらにも置き換えることが可能で、染色に必要なエネルギー量も約半分で済みます。
構造色を使ったまったく新しい着色
さらに、染料を使わないまったく新しい繊維の着色が研究されています。クジャクの羽や昆虫の翅などに見られるような、物質の構造による光の散乱や干渉による発色「構造色」を繊維に応用しようというものです。ナノスケールの穴がたくさん開いた高分子で作る「エアロゲル繊維」は、光を散乱するため空と同じ構造色を出すことが可能です。さらに繊維を液晶やコロイド結晶で加工すると、玉虫の翅やクジャクの羽のような構造色も作れます。構造色ゆえに脱色の必要がなく、リサイクルしやすいため環境負荷が小さいほか、染料では不可能な新しい美しさの表現法としても期待されます。
エアロゲル繊維は機能面でも優秀
エアロゲル繊維は、繊維の中に90%以上の空気を含みます。非常に軽く、断熱性に優れていることから、宇宙服や防護服、家の断熱材などへの応用が考えられます。繊維を最小単位まで分解してから再構築する技術の開発により、特殊な繊維材料を使わなくても、アラミドや、綿・麻などのセルロースからエアロゲル繊維が作れるようになりました。また、その乾燥過程では多孔性が損なわれないように、前述の超臨界二酸化炭素が使われています。
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福井大学工学部 物質・生命化学科 教授廣垣 和正 先生
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