身近なのに謎が多い「沸騰」 実は高品質な鉄鋼を作るカギ

フライパン上を滑る水滴
空だきしたフライパンの表面に落ちた水滴が、壊れずにふわふわと漂うところを見たことがあるでしょうか。これは「ライデンフロスト現象」と呼ばれるもので、高温のフライパンに接した水滴の下部が瞬時に蒸発して、水滴とフライパンのあいだに蒸気の膜が生じることで起こります。このように蒸気膜ができる沸騰を「膜沸騰」といいます。これに対して、普段お湯を沸かすときのような鍋の底から泡が出る沸騰を「核沸騰」といいますが、鍋の底の温度がさらに高くなるとやはり膜沸騰の状態になります。沸騰は日常生活の身近な現象ですが、そのメカニズムにはまだまだわからない点があります。
良質な鉄鋼を作るために
金属板などの表面で膜沸騰が起こっている間は、蒸気膜の存在で水と金属板は接触しませんが、温度が下がるとやがて蒸気膜がつぶれて金属板の表面と水が接触します。この変化を「ぬれの開始」と呼びます。鉄鋼生産においては、熱した鉄鋼を水で冷却する過程で、ぬれの開始が何度で起きるのかが非常に重要です。自動車などに最適な軽くて丈夫な鉄鋼を作るにはそれを急速に冷却する必要がありますが、蒸気膜ができると熱が伝わりにくくなり温度があまり下がりません。そのため、高い温度でぬれが始まることが望まれます。鉄鋼メーカーでは、経験則でぬれがはじまる温度を高くコントロールしていますが、ぬれの開始のメカニズムはまだ解明されていないのです。
蒸気膜がつぶれる条件
ぬれの開始のメカニズム解明は、ぬれの開始が不均一に生じて強度にむらができてしまうといった課題の解決にもつながると期待されています。膜沸騰を視覚的に調べられる、透明で熱伝導性の高いサファイヤ板を使った実験や、シミュレーション、AIなどさまざまな手法で研究が進められています。現在のところ、蒸気膜がつぶれる条件は水と金属表面の両方に関係があることがわかってきており、これを数式で表すことができれば、鉄鋼生産の省工程、省エネルギーに貢献できると考えられます。
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福井大学工学部 機械・システム工学科 教授永井 二郎 先生
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