生き物のように多彩に動ける化学システムをつくることができるか?
生命は、自ら非平衡状態を作る
「化学平衡」とは、可逆反応において、順方向と逆方向の反応速度がつり合い、見かけ上反応が止まっている状態を指します。平衡から離れた状態を非平衡と呼びますが、これは特殊なものではなく、自然界でよく見られる状態です。例えば魚のうろこのように見えるうろこ雲は、雲の分布が均一でないので非平衡状態と言えます。熱帯魚の体表の模様も同様です。
この世界の物理法則では、初期が非平衡状態であっても最終的には平衡状態に進行するのが一般的です。しかし自然や生命の世界では、非平衡状態を自発的に作る様子が見られます。特に生命現象ではこの非平衡状態が生命活動を営む上で重要になります。
生き物のように動く物質
小さいせっけんの粒を水面に浮かべるとせっけん粒が運動します。水の表面張力とせっけん水の表面張力との差が駆動力となるのです。そして水面にせっけん分子が均等に広がって平衡状態となり、この運動はすぐに終わります。それに対し、小さなプラスチックの船に樟脳(しょうのう)の粒を接着して作られる樟脳船は、等速運動を持続します。樟脳船も樟脳分子が水面に広がることで運動しますが、広がった樟脳分子は水に溶けたり大気中に昇華したりするので、表面張力差が保たれ、駆動力が持続するのです。
新しいエネルギー変換システム
通常の酸化還元反応は、酸化か還元のどちらかに進みますが、「ベロウソフ・ジャボチンスキー反応」では、酸化と還元を交互に繰り返す振動反応を示します。これを空間的に広げると、酸化状態と還元状態の空間パターンが形成されます。振動や空間パターンを形成する現象の研究は、自発的に非平衡状態を作る原理を明らかにすることにつながります。例えば、電池は新品の状態から平衡に向かって進行するシステムで、やがて起電力が失われて使えなくなります。しかし、もし樟脳船のように自発的に平衡から離れて振動やパターンを形成するシステムを作れれば、まさに新しいエネルギー変換システムの可能性が見えてくるのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 化学科 教授 中田 聡 先生
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機能物性化学、非平衡系科学、界面化学先生が目指すSDGs
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