がん細胞の動きをコントロールできる時代が来る?
がん細胞が広がることを防ぐ方法
薬物治療や外科手術をしても治らない悪性度の高いがんに対して、転移などを起こさないようにがん細胞を大人しくさせることで、治る確率を上げようという研究が進められています。ここでは、神経の発達に関わっているネトリンとセマフォリンという「軸索誘導因子」のグループに注目しているのが特徴です。軸索誘導因子は神経以外にも、がん細胞の動きに関わる、免疫細胞に影響するなど、いろいろな作用を持つことがわかっています。中でもネトリンはがん細胞を活発化させて、セマフォリンはがん細胞を大人しくさせる効果があることが判明しました。そこで、ネトリンに対してはその動きにブレーキをかけて、セマフォリンにはもっと元気に働いてもらう手段を探しているのです。
明確になった課題をどう解決するか
具体的な研究手法は、培養したがん細胞を使う実験と、動物実験が用いられています。ネトリンとセマフォリンをそれぞれに吸収させて、がん細胞の増減を調査するのです。
ただ、そこには課題も存在しています。まず、ネトリンの働きを確実に止める手法は未だ確立していません。また、セマフォリンはタンパク質の一種なので、摂取すれば体の中で分解されてしまいます。それを防いで安定した形で体内に送り込むには、工夫の必要があります。それでもこの部分がクリアできれば、研究は一気に進むものと考えられています。
既存の治療薬の効果を高める
日本人の死亡理由の第一位はがんであることはよく知られています。早期発見できれば回復が見込める病気ですが、転移などを起こして治すことが難しくなる場合も少なくありません。しかし、この研究によりネトリンとセマフォリンの働きをコントロールできるようになれば、体に大きな負担をかけることなく、がん治療に使われてきた薬の効果を高める環境が作り出せるはずです。つまりこの研究はがん治療の進歩につながり、悪性のがんも治る確率を高める可能性を秘めているのです。
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