作者の過去にも注目! 文学作品を掘り下げて見えてくるもの
食人種と出会った小説家
サマセット・モームが『世界の十大小説』の中でも取り上げた『白鯨』の著者ハーマン・メルヴィルは、捕鯨船員の経験をもつ作家です。デビュー作となった『タイピー』は、船員としての過酷な労働から逃げ出し、「カニバリズム」=「人間が人間の肉を食べる」風習をもつ民族がいる村に滞在した、というメルヴィル自身の劇的な体験をもとに創作されました。
カニバリズムと資本主義の共通項
カニバリズムは捕食者と被食者がいて成り立つものですが、彼はこの概念から得た考え方を発展させ、西洋社会に潜むカニバリズム的性質を暴き出しました。例えば、アメリカ資本主義社会の象徴であるウォール街を舞台とする短編小説の中では、登場する労働者たちに食べ物のあだ名があり、資本主義社会における「搾取する側」と「搾取される側」の存在を描いています。また、『白鯨』では、「セルフカニバリズム」、つまり「自分で自分を食べる行為」ともとらえられる様子が描かれています。白鯨に片足を食いちぎられたエイハブ船長が、その報復のための執念によって理性を失い、その結果己の狂気によって自身が蝕まれていくのです。このようにしてメルヴィルは、自身の体験をさまざまな形で作品に昇華させていきました。
物語を読むことで身につく力
作者の過去や時代背景などといった視点から作品を掘り下げてみると、文学作品に新たな解釈をもたらすことができます。さまざまな視点を持つことは、現実の出来事や問題に対する多様な考え方につながり、柔軟性を養うことができます。加えて、物語を読むことは登場人物の追体験をする行為なので、他者理解の力を高めることにもつながります。今、求められている「エンパシー」のスキル、つまり「自分とは異なる意見を持つ相手に対して、その人の立場に立って想像する力」も養うことができます。文学からは、人々が幸せに生きるための術を学ぶことができるのです。
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京都ノートルダム女子大学 国際言語文化学部 英語英文学科 准教授 大川 淳 先生
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