文学作品から読み解く、日系移民のアイデンティティ

文学作品から読み解く、日系移民のアイデンティティ

ディアスポラ文学

日本にルーツをもつ人は、南米やアメリカ、イギリスなど世界中で暮らしています。周囲とは異なるルーツをもちつつも、現地の社会や文化に溶け込む日系移民のアイデンティティは、学問的な研究対象にもなっています。日本に対する思いや、移民として暮らしていくことの葛藤、移民を取り巻く現実は、イギリスのカズオ・イシグロやカナダのヒロミ・ゴトーといった日系人作家の小説の中でより深く知ることができます。日系人に限らずこうした作品は文学の世界で「ディアスポラ(移民)文学」と呼ばれ、世界中で読まれています。

地域・世代間のギャップ

移民の境遇は、所属する社会(国)によって大きく異なります。例えばアメリカやカナダは、第二次世界大戦中に、日系人をキャンプに強制収容しました。それはとても差別的で過酷な政策でしたが、結果的に日系移民の絆を強めました。一方で、イギリスには戦後に移ってきた人が多く、そうした強い結びつきは見られません。また、古い世代の移民が、日本の文化や言語に誇りをもち、子や孫に伝えようとするのに対し、現地で生まれ育った世代はそれを敬遠するといった、世代による傾向の違いも見られます。こうしたギャップは、しばしば日本ディアスポラ文学の主題になってきました。

クロース・リーディング

ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの作品は、移民のアイデンティティが直接的な主題になることはほとんどありません。しかし彼の作品は、物語の語り手が時に真実を語らない「信頼できない語り手」という手法が特徴で、その語りの揺らぎを、彼のアイデンティティに重ねることができます。こうした作品の細部に着目する研究手法をクロース・リーディングといいます。「日系移民は〇〇である」というステレオタイプ的な描かれ方ではなく、より複雑で多様な側面をもつ日系ディアスポラ文学を深く読み解くためには、クロース・リーディングをはじめとする文学研究の専門的な視点・手法が欠かせないのです。

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京都ノートルダム女子大学 国際言語文化学部 英語英文学科 講師 ライル デ ソーザ 先生

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文学

メッセージ

日本にルーツをもち海外で生活している移民の数は、現在約380万人です。非常に多くの人が、世界中で生活している時代にあって、彼らのアイデンティティがどのように形成されているのかはとても興味深い研究テーマです。
また、現代は、国際的な人のつながりがこれまでになく重視される時代です。日本の学生であるあなたにも、広く世界に目を向けて、さまざまな国籍やバックグラウンドをもつ人たちと、どうすれば良い関係性が築けるかを、考えてほしいと思います。

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