石川啄木の新しさ 近代短歌の「アップデート」とは

石川啄木の新しさ 近代短歌の「アップデート」とは

石川啄木の試み

明治時代の日本は近代化を遂げ、社会は大きく変化しました。近代化の波は文学にも及びます。短歌も例外ではありませんでした。そんな時代に、万葉集の時代から続く短歌を適応させる役割を果たしたのが、明治を代表する歌人、石川啄木です。代表作に「ふるさとの訛(なまり)なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく」という短歌があります。冒頭の「ふるさと」は、近代化によって多くの人が都心に移り住んだことによって一般的になった概念であり、啄木は、訛りを耳にして、遠い故郷を思う「都会人の孤独」という、近代以前には描かれなかった感情を表現したのです。

言葉の近代化に向き合う

同じく啄木の「何やらむ/穏かならぬ目付して/鶴嘴(つるはし)を打つ群を見てゐる」という短歌は、「テイル」という形で終わります。これは当時の工夫の一つでした。古典では、時を表す助動詞は「つ」「ぬ」「たり」「り」「き」「けり」と多くの種類があり、和歌(昔の短歌)にも多く使われています。明治期に入って、書き言葉を話し言葉に近づけようとする「言文一致運動」など言葉の近代化によって、こうした助動詞はすべて「た」に集約されました。しかし、「た」という助動詞は、一人称で歌われる短歌との相性が悪く、かといって従来の古典的な助動詞ばかりに頼れない中で、啄木が打ち出したのが、「テイル」で終わるような新しい形だったのです。

アップデートは続く

短歌が近代化に適応できたのは、啄木のように、当時の歌人たちが短歌をアップデートさせたことが大きく関係しています。こうした試みは時代を経ても受け継がれ、現代でも口語を交えて表現する俵万智の『サラダ記念日』のような短歌が生まれ続けています。短歌のアップデートは、はっきりと示されるものではなく、主題や視点の置き方、細かな言葉の選び方といった目立ちにくい部分に現れます。こうした細かな変化をとらえ、短歌の発展や新しさを記録することは、短歌研究の大きな意義です。

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京都ノートルダム女子大学 国際言語文化学部 国際日本文化学科 教授 河野 有時 先生

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