あなたは「~している」をどう言う? 言葉の変化を考える
言葉は伝播する
政治・経済・文化の発展に地域差があることは言うまでもありません。発展が特に進んでいる地域を「文化中心地」と呼び、それ以外の地域を「周辺地域」と呼びます。周辺地域の人々が中心地の文化に憧れ、言葉を真似ることはよくあります。これによって、中心地のことばは周辺地域に同心円状に伝わっていくのです。かつて日本の文化中心地であった京都の方言は、千年以上かけて日本全土に伝わっていきました。
「蝸牛」の発音
1930年、柳田國男により蝸牛の発音に関する調査が行われました。これによると、近畿から同心円状に「デデムシ→マイマイ→カタツムリ→ツブリ→ナメクジ」と言い方が異なっていました。近畿から一番遠い地域の「ナメクジ」という言い方は、時間をかけて近畿から伝わったものであり、近畿では既に古い言葉でした。一方で、「デデムシ」という言い方はまだ遠くまで伝わらずに近畿だけで使われており、新しい言い方だったのです。
伝播手段は変わる
言葉の伝播は移動を伴う人の交流を前提とします。古代社会では徒歩や騎馬での移動がほとんどだったので、中心地の方言は、「地を這う」ように伝播していきました。そのため、途中で日本アルプスのような高い山脈があると、多くの言語表現の伝播はそこで止まっていました。
一方、明治以降では飛び火状に言語表現が伝播する現象が起こりました。日本の文化中心地は東京に移り、交通手段も飛行機や電車(新幹線)に変わったためです。例えば、「~ている」という進行形は、愛知、岐阜、三重などの中間地点を飛ばして東京から直接関西へと伝播していると考えられます。また、人々の交流の様子も変化しました。昔は、都市と農村で物をやり取りしての交流が主流でしたが、現在は地方を飛ばして都市と都市の間での交流が重要になっています。デジタル化する現代では、さらに状況は変わっていくでしょう。
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同志社大学 文化情報学部 文化情報学科 教授 沈 力 先生
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