当たり前を「疑う」のではなく「問い直す」とは?
当たり前を問い直す
私たちは様々な「当たり前」に囲まれて生きています。例えば、教室で友達とおしゃべりするとき、目に見えている通りに自分が座ろうとしている椅子が存在すること(知覚の信頼性)、その友達がロボットではなく、何かを考えたり感じたりする存在であること(他者の心)などを「当たり前」としなければ、生きていけません。実際、「そこに本当に椅子があるのだろうか」と座ることをためらう人などいないはずです。しかし、哲学者たちはそこで立ち止まって、そのような「当たり前」を点検しようとします。哲学とは、私たちの「当たり前」-大げさに言うならば「世界観」-を問い直す学問なのです。
疑いから明確化へ
「当たり前を問い直す」と言うと、つまり当たり前を「疑う」ことだと思う人もいるかもしれません。実際、哲学者の中には私たちの認識を徹底して疑う人もいます。しかし、哲学の方法は「疑う」ということにつきるものではありません。例えば、「明確化」もまた重要な方法です。20世紀を代表する哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、重要なのは疑うことではなく、当たり前の中身を明確にすることだと考えました。
自分を導く物の見方を手に入れる
なぜ当たり前を明確にすることが大事なのでしょうか。もちろん、一つには「おもしろいから」ということがあります。実際、哲学的に考えることはとてもおもしろいことです。しかし、それだけでなく、自分たちの世界観を明確にすることは、真に自分が受け入れるべき物の見方を見極める、という意味もあります。例えば、「男女平等が望ましい」ということは「当たり前」かもしれません。しかし、「真に男女平等な社会とはどのような社会か?」と問われたら、簡単に答えるのは難しいです。そして、そこで必要なのは男女平等の大切さを「疑う」ことよりも、むしろ「平等」という概念の内容を明確にすることでしょう。当たり前に振り回されず、真に自分を導く世界観を手に入れること。これが哲学的明確化の一つの意義なのです。
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東京女子大学 現代教養学部 人文学科 哲学専攻 教授 大谷 弘 先生
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