『鬼滅の刃』から読み解く、戦争とアニメの深い関係
世界中で大ブームとなった人気漫画・アニメ
国内外で一大ブームを巻き起こした人気漫画・アニメ『鬼滅の刃』は、大正時代の日本を舞台に、不死身の人食い鬼に立ち向かう鬼殺隊の剣士たちの戦いを描いています。この映像と物語を分析すると、当時と近現代の日本の社会的背景を投影したアイデアが随所に盛り込まれていることがわかります。
語られなかった昭和と第二次世界大戦
鬼との激闘が終わった後の最終話では、場面が一気に現代の日本に飛びます。そこでは、生き残った剣士たちの子孫や、戦いの中で命を落とした剣士たちの生まれ変わりと思われる人々が、幸せな暮らしを営んでいます。大正時代と平成・令和の時代の間に存在する昭和時代や第二次世界大戦については、何も語られていません。これは、大正ロマンや大正モダニズムなどに代表される華やかな文化で活況を呈していた大正時代の日本のユートピア的なイメージが、剣士たちの子孫や生まれ変わりの人々は幸せに暮らしていてほしいという作者と読者の願望も含めた現代のユートピア的な描写と結びつけやすかったため、あえてその間を省いたのではないかと指摘されています。
「舞い散る花びら」が表すもの
また、最終巻では、「生まれてくることができて幸福でした」という文章とともに始まる書き下ろしのページが追加されています。はらはらと散る藤の花びらとともに、鬼との戦いで命を落とした剣士たちと、生き残った人々の姿が描かれています。この「散る花」は、第二次世界大戦時の日本の特攻隊の描写でよく用いられた、桜の花びらが舞い散る描写と似ています。どちらの場合も、ほかのみんなが生きることを信じながら死んだ人々の思いが、「散る花」というメタファー(隠喩)で表現されています。
『鬼滅の刃』では描かれることのなかった第二次世界大戦ですが、そのモチーフは「散る花」などの姿で、物語に抜き難く埋め込まれているのです。実際にあった戦争のモチーフは『鬼滅の刃』のほかにも、さまざまなアニメや映画で認められるので、ぜひあなたも探してみてください。
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同志社大学 文化情報学部 文化情報学科 准教授 佐野 明子 先生
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