「電子のブラックホール」多価イオンの可能性
地球上には存在しないイオン
原子は、元素の種類によって原子核の周りを決まった数の電子が回っていて、電子が離れると、プラスの電荷を帯びたイオンになります。通常は離れる電子は1つか2つですが、より多くの電子が離れる場合があり、こうしてできたイオンを「多価イオン」と呼びます。多価イオンは、原則として地球上には存在しません。「物質の第4の状態」と呼ばれるプラズマ状態の中でも特に高温のプラズマにおいて発生します。プラズマとは、高温のために、原子から電子が離れて飛び回っている状態を指します。
太陽を知るには多価イオンを知れ
多価イオンが存在する場所の代表は太陽です。太陽から炎のように吹き上がるコロナは100万度という高温に達し、そこでは原子がプラズマ状態となって多価イオンが発生しています。太陽の観測においては、多価イオンが発する紫外線などの電磁波をとらえることで太陽活動に関する情報を得ているので、多価イオンの正しい特性を知ることは、太陽を知ることにつながります。また、太陽内では常に核融合反応が起こっています。地球上での新しいエネルギー源として、核融合反応の研究が進められていますが、そこでも多価イオンの知識が必要とされます。
これまで地球上では、加速器など大規模な施設でしか多価イオンを作ることができませんでした。しかし、電子をぶつけることで原子から電子をはぎ取る「電子ビームイオントラップ」という装置が開発され、さまざまな多価イオンが実験室で作り出せるようになりました。
多価イオンの持つ多彩な可能性
多価イオンは、ほかの物質から電子を奪おうとする力が強く、「電子を吸い取るブラックホール」とも呼ばれています。ナノテクノロジーの世界では、その爆発的な力を微細な表面加工などに応用できると考えられています。また、多価イオンを利用した新しい原子時計が実現すれば、現在の原子時計では検知不可能な物理定数の変動を捉えられるかもしれないなど、多価イオンの研究は、多くの分野での応用が期待されています。
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電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 教授 中村 信行 先生
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