放射線の通り道を目に見える形にする
プラスチックを使って、放射能を測る
放射線は目に見えませんが、その量や種類を測ることはできます。近年、あらためて注目されているのはプラスチックを使った検出器です。放射線とは、「原子をイオン化するエネルギーの粒」です。イオンが飛んできたら、それがプラスチックを通過するようにし、その後、そのプラスチックを化学処理すると、イオンの通り道に沿って、全体にかすかな傷が残ります。それをエッチングという、表面を少し削るような作業をすると、道が拡大されていきます。元の道は見えませんが、拡大しているので、光学顕微鏡で見ることができるのです。イオンの通り道は、「エッチピット」と呼ばれる数μ(マイクロ)程度の小さな穴です。この穴を分析すると、イオンの種類と大きさがわかるのです。
アポロ宇宙飛行士のヘルメットの穴
この研究のきっかけは、1960年代のアポロ宇宙飛行士です。彼らのかぶっていたヘルメットは、当時開発されたばかりのポリカーボネートという、耐熱性・耐摩耗性などにすぐれたエンジニアリングプラスチックの一種でした。これを化学処理するとたくさんの穴が見えました。それが鉄や亜鉛によるものだとわかったことから、この方法が使えると実証されたのです。
記録しやすいプラスチックのひとつに、「ポリ・アリル・ジグリコール・カーボネート」があります。第二次大戦前から作られていたもので、元はメガネのレンズの材料にもなっています。宇宙飛行士はこれを胸につけ、被ばくの線量を測ります。イオンの放射線は地球では少ないですが、宇宙には多く飛んでいるので測定は大切です。
将来性が期待される検出器
通常、放射線を測るのには、大きな装置と電源、1000ボルトぐらいの高い電圧などの用意が必要です。それで、電離現象をシグナルに変えるのです。これに比べ、プラスチックを使った検出器のよさは、放射線にあてるだけでいいというその手軽さと利便性です。放射線を使う医療現場でも、この検出器は活用できますので、今後の研究が期待されます。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 海事科学部 海洋安全システム科学科 教授 山内 知也 先生
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