神経細胞の電子版、シリコンニューロンを作る研究の歩み

神経細胞の電子版、シリコンニューロンを作る研究の歩み

神経細胞を再現する研究の始まり

数理学的手法を駆使して神経細胞と同じように動く電子回路を作り、最終的には人間の脳と同じように動く人工神経細胞の研究が進んでいます。この電子回路を「シリコンニューロン」と言います。
初めてシリコンニューロンが作られたのは1980年代です。ほとんどの神経細胞は電気パルス(一瞬の間だけ現れる信号)を使って情報をやりとりしているので、このパルスを非常に簡単にまねた回路から始まりました。神経細胞のパルスをいかにうまく再現するかが重要なテーマで、今までにさまざまな工夫が重ねられてきています。

イオンの流れを数式化

この研究が進む中で、神経細胞を出入りするイオンのメカニズムを数式にする研究が行われました。脂でできた細胞膜をイオンチャネルと呼ばれる仕組みによりイオンが通過することで膜電位が発生することに着目したのです。この数式は非常に優れていたので、それを電子回路で作る試みが行われました。しかし、この式には電子回路の苦手とする式が入っているため、とても大きな電力を消費するものでした。また、この回路を動かすには外部から電圧を与えて複雑に調節しないといけないところも問題でした。
なによりこの式は非常に複雑で、メカニズムがわかりにくいのが欠点だったのです。

省電力化の研究

そこで、このモデルのメカニズムを壊さずに、簡略化された関数が作られました。これを「定性的神経モデル」と言います。これは人間がとても扱いやすい「多項式」で表されています。しかし、これを電子回路にしても、大きな電力を消費するという問題が残ります。
そこで、人間が扱いやすいこの関数の代わりに、電子回路にとって扱いやすい関数に再構築し、電子回路を作る研究が進められています。それには「ハイパボリックタンジェント」という関数とそれを変形したものを使います。
こうしてできた電子回路は1ニューロンで数ナノアンペアしか消費しない、省電力回路です。この研究が進めば、将来は人間の脳がシリコンニューロンで再現できるかもしれません。

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東京大学 生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター 准教授 河野 崇 先生

東京大学 生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター 准教授 河野 崇 先生

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メッセージ

自分の興味のあることが見つかったら、それを一生懸命やってください。私は高校生の時に物理が好きで、大学生が使う教科書を読んでいました。「難しくてわからないだろう」、と思って読まなかったり、最初の数ページを読んであきらめてしまうのはもったいないことです。もちろん、わからないところはたくさんありますが、一部分でもわかるところが必ずあります。何度も読んでいるうちに、そこを中心に、少しずつその周辺がわかるようになってきます。わからないからとあきらめず、わからないなりに取り組んでみることがとても大事です。

先生への質問

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東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。