海の宝探し~海洋生物から薬の成分を見つけ出せ~
薬の有効成分を持つ海洋生物
日本は海に囲まれた海洋資源に恵まれた国です。海洋資源の中には、医薬品として有用な物質を持っている生物もいます。例えば、カイメンの作る化合物は乳がんの治療薬として、タツナミガイが持つ毒は白血病の治療薬として応用されています。そうした物質を探すフィールドとして、特に多様な生物が生息している亜熱帯の海域が注目されています。
新たな抗がん剤となる物質を探す
従来の抗がん剤は、正常細胞にも影響してしまうために副作用が問題となります。そこで、がん細胞そのものではなく、がん細胞が出すキヌレニンという物質に注目した研究が行われています。本来であれば悪い細胞を排除するはずの免疫細胞は、キヌレニンにより働きが抑えられて、がん細胞を攻撃できません。そこで、がん細胞がキヌレニンを産生できなくする物質を探すというものです。
がん細胞を培養してキヌレニンを産生しやすい状態にし、そこに海で採取した生物から取り出した細胞を加えます。キヌレニンを産生するとプレートは黄色くなりますが、もし生物の中に産生を阻止する有効成分があれば色は変わりません。400種の生物試料の中から4つの試料に有効成分が見られ、中でも亜熱帯海域に生息するシアノバクテリアからの抽出液は高い効果を示しました。そこで、抽出液からキヌレニン産生を阻害する物質を取り出します。
海洋生物から宝を見つける
最終的に、シアノバクテリア4kgから41.6㎎の化合物が取り出せました。この化合物を解析して、物質の構造式を突き止めます。その結果、これまでに存在が報告されてこなかった新規の化合物が発見されたのです。
ノーベル賞を受賞した大村智先生が微生物からアベルメクチンという物質を、下村脩先生がオワンクラゲから蛍光タンパク質を見つけ出しました。一つの新しい物質の発見は世界中を豊かにし、新しい分野の扉を開きます。まだ解明されていない海洋生物を研究することは、海の宝探しだといえます。
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先生情報 / 大学情報
工学院大学 先進工学部 生命化学科 准教授 大野 修 先生
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