現代の性能に合わせて活用する 歴史的建造物の「保存と再生」
「スクラップ・アンド・ビルド」から「保存・再生」へ
ヨーロッパに比べて地震が多い日本では、これまでは古い建物を取り壊して新しく建て直す「スクラップ・アンド・ビルド」が当たり前でした。しかし、近年では既存の建物を壊さずに残して活用する「保存・再生」が重要になってきています。その中でも、建物の用途を変換し新たな方法で活用することを「コンバージョン」と言いますが、「Conversion」とは「転換」を意味する英語で、建築の分野では既存の建物を現代で要求される性能に合わせて活用することを指します。
歴史的建築物の保存・再生
建築の保存・再生は、解体して新しい建物を建てるよりも産業廃棄物の発生が少なく環境にも優しい方法です。例えば、世界遺産になった富岡製糸場の国宝「西置繭所」では、オリジナルの材料になるべく手を付けずに残すために、「ハウス・イン・ハウス」と名付けられた、既存の建物の内側に耐震補強を兼ねたガラスの箱を挿入する手法が採用されています。そして、多目的ホールとしての利用が出来るようになっていますが、これは古い建物を修復して保存するだけでなく、現代の人がそこで培われてきた文化に触れながら活用することで、新たな価値を生み出しているのです。
0か100かではなく何を残すのか
歴史的建造物の保存・再生デザインの方法には確固とした規定などは有りませんが、なるべくオリジナルの素材を残すことが大切です。ところが、古い建物になればなるほど設計図が残されていないことが多く、実際に調査に入ると想定よりも状態が悪いことも有り、全てを当初の想定通りに残すことが困難であるケースが多いのが実情です。そのために、調査を行いながら残していくものの優先順位を考え、プロジェクトを進めていく必要があります。歴史が誤解されないように新旧の調和と対比を考えながら、どこをどのように残すかのバランスを取るところが腕の見せどころです。
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工学院大学 建築学部 建築デザイン学科 教授 大内田 史郎 先生
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